和泉千晶流の

「・・・お願いがあるの、冬馬さん。」

「なんだ言ってみろ?」

「今度講演で海外に行くことになってて、その間だけ、春希を貸してほしいの。」

「・・・・・・。」

「その、いつもみたいに身の回りの世話をしてくれる人ってことじゃなくて・・・。」

「・・・なくて?」

「思い出を・・・。あたしが唯一愛した人との思い出とその証が欲しいの・・・。」

「・・・・・・・あのな」

「分かってる!冬馬さんは賛成してくれるわけがないってことくらい。でもね、何も言わずに連れていくのは悪いと思って。春希をいきなり数が月の間連れて行ってしまう前にせめて伝えるのがあたしの誠意だと思って。」

「・・・いや」

「許してくれとも分かってくれとも言わないわ。言えるわけがないもんね。だから、これだけは言わせて。」

「・・・」

「ごめんなさい・・・・・・・。」

千晶はそう言って頭を下げる

その頭を見下ろしながら かずさが口を開く

「和泉、一つだけいいか?」

「私に答えられることなら、どんなことでも。」

「それ、去年同じことを母さんがやったぞ。」

ため息交じりにかずさが言った

その瞬間 冬馬家のリビングの時が止まり

「あっれ~~~、うそーーー!」

千晶の驚きの声が響いたのだった



「なんだってとち狂った芸術家のやることなすこと同じなんだろうな。それともお前と母さんが単に思考回路が近いからなのか?」

「折角、春希がいないタイミングを見計らってここまでやったのに~。あたしの計画が実行する前にパーだなんであんまりだ!」

「あんまりなのはお前の頭の中だろ、本当に。」

「一か月も前からネタのために春希の今日のスケジュール調べて、春希と何かある風を装ってみたりして、下地を作ってたのに~。」

「暇なことで。」

「ホワイトデーだって別のことで返してもらうってことでやせ我慢したのに、どういうことだ~。」

「馬鹿だったってことだろ。」

「考えてみれば、冬馬さんいじりするならこの手は外せないしね、気づいとくべきだった~、くっそ~~~。」

「無駄に演技力発揮してたところ申し訳ないが、むしろ演技くさ過ぎて怪しいことこの上なかったぞ。」

「いつもと違う雰囲気で攻めればいけるはずだったのに~!」

「そのせいであたしはなんのデジャヴかと思ったわけだが。」

「いや、まだだ、まだ終わらんよ!来年またチャンスは来る!」

「さすがに三年連続で気づかないと思うのか?」

「いや~わかんないよ~?春希をもっと巻き込めばさすがに平静を保てないだろうし、分かっていても人は疑ってしまう生き物だよ~?」

「それもやめとけ。去年母さんが巻き込んだ時も春希が途中であっさり真相ばらしたぞ。」

「くわぁ~!春希は分かってない~!」

「分かってないのはお前だ、和泉。そんなことに協力しようとすれば後で俺がどんな被害にあうか。」

「うぉ!春希、いつの間に。」

「おかえり、春希。」

「ただいま、かずさ。全く人のいない間に何しに来たかと思えばろくでもないことしてやがったのだけは分かった。」

「あたしが何したっていうのさ~!」

「去年のお義母さんと同じようなことだろ?」

「納得いかない~!せっかく人がサプライズでエンターテイメントを提供したのに~!」

「エイプリルフールにかこつけて騙しに来て、他人の家庭に波風立てようとしてただけにしか見えないんだが。」

「お芝居の練習くらい、いいじゃないか~!」

「それが本音か。」

「そんなこと言ってると夕飯やらんぞ。」

「ごめんなさい、あたしが間違っていました、だから夕飯ください。」

「「変わり身早過ぎるだろ」」

「背に腹は代えられんし、お腹と背中がくっつきそうだし~。悲壮感出すために今日はご飯抜きだから、お腹空いてさ~。」

「「お前、馬鹿だろ」」

「だから、大盛り、超特急でよろしく~。」

「はいはい、今から用意するから待ってろ。」

そう言って台所に春希は立ち それをリビングから見守る千晶

そしてその千晶を横目で眺めながら

どこの馬鹿がエイプリルフールなんてものを作ったのやらと思うかずさであった



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

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春という季節に

「今の、何の匂いだ?」

「この時期だと梅か桃だろうけど、桃の花かな、多分。」

「そうか。」

ふとした匂い

仄かに甘い 花の匂い

それを言葉少なく確かめあって

季節が変化していることを知る

だからこそ、多くを語り合うことはない

だってこれからくる季節は少し、2人には重い

何度も経験したが故に心に防波堤をはるかのよう、身構えてしまう

花の香りだけじゃない

例えば日差しの強さや影の長さだとか

時折、少し暖かめな春風が吹く日が混じることとか

コートやセーターが少し暑く感じる時がある日や

日中にエアコンを点ける必要がないくらいだったりと

いくつもの出来事が変化を感じさせ、それゆえに2人を身構えさせる

だってこれからくる季節は

春、だから

出会いと別れの季節ではい

別れて一人になる季節

家族と別れて2人だけの世界になった季節

春は希望じゃない

いつだって、孤独な季節





そんな孤独な、2人だけの季節を過ごしてきたけども

今は、こうして小さな世界から戻り
東京の街を歩いている

初めての再会の季節になった冬を越えようとしている2人に

また、春が

孤独な季節がやってくる

それを感じてしまった時の不安

言葉少なくしか語れない

語れるはずがない

それでも季節は移ろいゆく

確かなスピードで、淡々と、確実に。

冬はもう終わり 春がくる

その瞬間をこうして2人で、

春希はかずさと

かずさは春希と

東京の片隅を歩く

初めての 2人での東京の春

「季節変わる、な。」

「ああ、新しい季節がくるな。」

そして、季節の変わり目を感じることさが、2人を刺激する

今までと、この二年とは違う
懐かしい季節の変化
置いてきた記憶の中の月日を思い起こさせる変わり方

それがまだ春になりきらない冷たい風よりも2人を震えさせる

「何か変わるかな?」

「変わらないこともあるだろ。」

だから、何があっても変わらないものを確かめ合って

道を進む

季節が流れ、景色が流れ

それでも変わらずに

2人で歩いていくのだ

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明けましておめどうございます

相変わらずの亀更新ながら、本年もよろしくお願い致します。
今年も、ペースは遅めですが、更新は続けていく予定ですし、よほどのことがない限り、完結まで何年かけても続けていくつもりです。
WA2以外にもちょこちょこ書いておりますので、それも更新する機会があれば更新したいかと思います。

小市民の私はSS書き続けられるだけで幸せでございます。

2017年になりましたが、皆様もこれからもご健康で、ご多幸であられますように。



秋空の雪

「おいおいまだ季節は秋じゃなかったのか?」

「暦の上では秋で間違いないぞ。昨日だって秋だったろ?」

「カレンダーじゃそうかもしれないが、ならこの景色はなんだ?」

11月下旬

まだ東京では紅葉が楽しめる時期で
寒さも少しずつ、強くなってきてるとはいえ、肌を指すような冬の寒さを感じるほどではない秋の気配さえ残るのに
昨日、一昨日まで残っていたのに

何故か今日は窓の外が白く染めあがっている

何十年ぶりだとニュースが驚きをもって語り
同時に交通網の乱れを報じていて

時期はずれの天気を繰り返し伝えている
そう、この時期はずれの景色を


11月の雪景色を


「まさか、まだ秋なのに雪を見せられるとは思いもよらなかったよ。」

「それは俺もだ。まさか、紅葉と雪景色が同時に見られるなんてそうはないだろうし。」

赤と白のコントラスト鮮やかで美しく
その幻想的な景色が美しがために
何か空恐ろしいものを感じさせてしまう

世界がいつもと違う顔を見せたことに、怖れをも抱かせる

「世界もお節介なことだな、本当に。わざわざ、教えてくれなくても分かっちゃいるってのに。」

「今年の冬は今までとは違う冬になることを、か。確かにお節介だよな。」

「お節介のありがた迷惑が分かったんじゃないのか?」

これには春希も苦笑するしかない

「ただ、わざわざ世界が教えてくれるなんて、運命なんてものを感じさせてくれるなんて、春希の思い込みもバカにできるもをじゃないのかもな。」

雪なんて気象現象で、そこに何か特別な意味なんてない、偶然の一致なはず
でも、そこに特別な意味を感じてしまっていた過去を聞いていたかずさとしては少し気がかり
このタイミング、この状況での、季節はずれの雪
これを偶然と言い切れるほど、2人の世界は優しくはない

「それでも、前に進って決めたからには、行くさ。そのためにここにいるんだから。」

「前に進めば冬がくるぞ?」

「冬がきてこそ、だろ。」

雪景色からかずさに目線を合わせて、静かに、だがハッキリと告げる

それにかずさは眼差しで応える

季節はずれのなんかじゃない

その時だけの特別じゃない

あの日置いてきた、雪がもう一度やってくる季節に――――――


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The Day After 45

「覚悟、決めたのね。」

先日、日本に帰国した2人はまず冬馬曜子を訪れ、これからどうするかを話した
それに対する反応がこれ
表情には 理解と ほんの少しの呆れ と 諦め があった

「でも、そうよね。そうせずにはいられないわよね、あなたたちなら。」

僅かな羨ましさをも覗かせながら曜子が言葉を続ける

「もうどこにいても、それでどうにかなるわけでもないしな。」

答えたかずさは決意と覚悟のみを見せて言う
2人だけの世界から出た以上、どこにいたって繋がりはなくならない
届けようと思えば、映像だって声だって歌だって届けられる
それならば、だ

「そんな時代になったのねぇ・・・。」

「年寄り発言か、らしくない。」

「あなたね、わたしだってたまには感傷にひたることはあるのよ。」

「それもキャラじゃないだろ、病気で気弱にでもなったのか?」

「・・・そういうあなたは強くなったわね。」

思わず曜子がもらす
春希が隣にいる時のかずさは、自分が知るあのかずさじゃないって、わかってはいたはずだが

「あっちでの二年も、この半年も無為に過ごしてたわけでもないしな。・・・しかし、春希と同じこと言われるとは思わなかった。」

「だって・・・ねぇ?」

「まあ、そうですね。」

「そんなことばっかり分かり合いやがって。」

言葉曖昧ながら分かり合う義理の親子に
肩をすくめる実の娘

昔のあのかずさを知るものとして、そう思うのは無理のないこと

「春希がいてくれてるんだ、違うさ。」

それに対するかずさの言い分は変わらない

「それもそうね、そうじゃなきゃ申し訳たたないものねぇ。」

自分とは違う決断した曜子は少しの皮肉と大きな敬意をこめて言う

「そりゃな。あの時のあたしを見てればそんなこと今さらだろ。」

日本を立つ前のかずさを見て曜子自身、幸せいっぱいという表現をしたくらいだ
故郷と母に別離を告げるはずの時 なのに

「そう、よね。そしてだからこそ、ぶつかれるし、ぶつからねばならないのよね。」

逃げたと自分では思っていないけど
人によってはそうも見えるかつての自分とは違う娘を眩しく感じることもある
少なくとも前を向いてハッキリとぶつかると言える娘は
自分の道を歩き始めているのだ

もう、母親の跡を追い、まるで同じ様な道を歩もうとしているかのような危うい娘ではなくなった

自分が唯一手に入れられなかったものを手に入れたこの子は
自分が手を引かねばどこにも行けなかった子供じゃなくなったのだ

「にしても長い荷物になりそうね、人生思ったよりも長いものよ?」

「今のあんたが言って説得力あるんだか、ないんだか・・・。」

「そうでもないわよ。かずさは知らないでしょうけど、私は昔、こんなに長生きするつもりなんてなかったもの。」

「あんたが?そんなこと聞いたことがないんだが。」

「でしょうね。かずさ、あなたがいるから長生きしなきゃならないって思うんだから。今だってそうじゃない。何のためにわざわざ私が闘病生活してると思うのよ。」

「ちょっと意外ですね、かずさのことはともかくとしても、どんなことにも闘っていきそうなんですが・・・。」

かずさがその言葉に応えられないのを見越して春希が疑問をきいてみる

割と昔からそういったものには負けん気を発揮する物だと思っていた

「間違ってはないわ。ただ若い頃は色々なものにぶつかって闘って無茶ばかりしていたから、長生きしている自分が想像できなかったのよねぇ。」

「今でも充分、というかあたしが知る限り、あたしが小さな頃から好き勝手に無茶ばかりしていたようにしか見えなかったんだが。」

闘病に関しては自分のためというのは理解してるから返す言葉がないかずさだったが
自分の子供の頃の話となると疑ってしまう
どう考えても母親というにはどうなのだろうという記憶が山ほどある

「していたかもしれないけど、独りの時よりは大人しくというか、かずさに迷惑にはならないくらいにはしてたもの。」

「その基準価値が既におかしいんじゃないか。迷惑かけないって、世話をしなきゃいけないのが親だろうが。」

「そこは無理そうだと思ったので人に任せたわけよ。でも、できることはしてたし、私だって守りにはいってた部分もあるのよ。少なくともあなたが小さい頃には日本住まいだったでしょ。」

「日本にいた時間と海外にいた時間を比べると日本にいたと果たして言えるかは微妙なとこだけだな。」

「それこそしょうがないじゃない。日本だとピアニストとして生きづらい状況だったんだから。」

「その原因をつくったのはあんただろ?自業自得としか思えないんだが。」

「ああ言えばこう言うこね、全く。話が進まないじゃないよ。」

「あんたの言うことがツッコミ所多すぎるせいだろ。自分の都合のいいように語りやがって。」

「人間なんてそんなものじゃないかしら。誰だってわざと自分の都合悪い様には言わないでしょうに。」

「あんたの個人的なやり口に人類全体を巻き込むな。」

本題は話し終えたかのようにいつものを繰り広げる2人を見て
半分、いや8割くらい苦笑する思いな春希であるが
これからのことを考えれば、今くらいはという思いもある

これから俺たちが雪菜とするのは、しなければならないのは話し合いなんかじゃない

意思のぶつけ合いだ

互いに自分が望むように望むことを相手に伝える、なんて優しいものじゃなくて
言葉にして投げつける、相手が受け取れるかどうかなんて考えずに。

そんな闘いが待っている

だから、この時間は、親子の時間くらいは日常の風景でいい

嵐の前くらいいつもの賑やかさを―――


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プロフィール

海雪 海辺月

Author:海雪 海辺月
現在、White Album2 SS、特に冬馬かずさ SSを執筆がメインです。
目次はカテゴリーの未分類においてあります。
Eメール:umiyuki_4s@yahoo.co.jp
@を半角にしてください
メアド載っけてないことに今さら気づきました・・・

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