秋が始まり、日々が始まり

「昼間はあんなに暑かったのに、この時間になると風が涼しくて・・・いつの間にか季節は変わり始めてるんだな。」

感慨深げにもらすかずさの隣りで
春希は同意半分、呆れ半分

珍しく仕事の都合もあって外出した2人だが
行くときは一歩外に出た途端
蒸し暑さに死にそうな表情して回れ右しそうになり春希の手を焼かせたはずのかずさが
そんな風に言うのだから、半分呆れが入るのも致し方ない所

でも、同意もできる

いつの間にか夕暮れには秋風が吹いていて
空は入道雲のように沸き立つ雲は見受けられず
細長い雲が薄く散らばっている様はまさに秋の空
季節は既に巡り始めている

夏から秋へと

それを肌で感じたのは春希もだ

「大分過ごしやすいし、外出はしやすい季節になったよ。」

そのセリフのような悩みとは基本的に縁のないかずさ相手では呆れもあるが
それでも季節の変化を感じ取っているのは一緒
日差しの下歩けば汗が吹き出るような暑さから
風があれば充分心地良く歩けるようになった

「過ぎ去ってみればあっという間だよな、時間て。」

夏も、5年も、2年も

「長いようで短いものさ。特に移り変わるその瞬間は。過ぎていくことに未練を感じるから余計に短く感じるんだろうな、と。」

2人だけの世界が終わることも

「惜しいと思うからこそ、か。」

その世界が続くことを願うからこそ

そのままで居続けたいと思うからこそ


「でも変わらないものはないし、変わらずにすむこともないんだ。」

体調だって変わるかもしれない
世界だって自分たちは変わらないことを望んでも、外から変革の力がかかることもある
遠くからの介入だってある

「季節も勝手に、いつの間にか、変わるものだし、仕方ないことか。」

「もう少し前向きにとらえてもいいとは思うけどな。」

「前向きに、なぁ。秋だとなんだ?」

「スポーツの秋とかどうだ?」

「そっくりそのまま返す。」

「じゃあ、読書の秋とか。」

「以下同文。」

「・・・芸術と食欲は秋に関係なくいつものことだし、そうなるとあと何かあるか?」

「それをあたしにきかれても・・・。なかなか前向きになるってのも難しいってことか?」

そういいつつ、ここがどこだかは2人とも分かってはいる
なぜここにいるかも、だ

「そうは言うが、後ろを向いてたって季節は戻らないのは確かだぞ。」

「分かってるよ、それくらいは。分かってなきゃここにはいないだろ。」

「・・・そう、だよな。」

分かってなければ、東京にはいられない

「だから、とりあえず秋の味覚ってやつでも楽しみにしとくさ。」

ここでしか味わえない季節を

「松茸でも用意しろってのか?」

「香りはいいかもしれないが、それだけだろ、あんなの。食べればただのキノコだってのより、果物だな。ブドウとかりんごとかを期待してる。もしくはくりご飯とか、炊き込みご飯とか。」

好物の果物だけではなく
敢えて記憶の中にある、子供の頃に食べたものもリクエストする
季節を象徴するようで それだけじゃないもの

「あー、確かにならではのものだな。」

春希も季節の食べ物として同意する
かずさがそれらを食べたのがいつどこでなのかをなんとなく理解しながら
なぜ、わざわざそれを言ったのもかも感じながら

「どうせならブドウ狩りにでもいくか?色々な種類のブドウを食べられるぞ。車で2時間もあれば行けるから遠くもない。」

理解しているからこそ、触れずに心にとどめる
それを用意することを 決めながら

「それはなかなか心ひかれるものがあるな。」

そんな風に会話しながら

訪れつつある秋の気配を全身で感じ

前を、やがて巡る季節を、見つめつつ

あの日も春希は歩いた河川敷を2人で行き

冬馬邸へと帰る

季節は巡る

同じ光景と 違うもの

この道のように一続きの過去から未来と

その中での変化

2人は同じことを感じながら 変わりゆく季節の中を 歩いているのだ―――


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東京から海風に吹かれに

「こんなところも悪くないな、意外と。」

本土から船で僅か数分しか離れていないこの島だが
都会で暮らす2人にとっては充分なほど日頃とは違うことを感じさせてくれる場所

ホテルの離れから見える景色一面が木々と海で、
聞こえてくる音は、波の音、鳥の声など
人の生活音はたまにしか聞こえないくらいの自然の中

そんな海辺の窓にかずさは座りながら 外を眺めつつ言う

その長い髪が海風によって軽く舞い、その表情には軽く笑みが浮かんでいるこの光景は

まさに一枚の美しき絵画

誰もが目を奪われるような特別な光景

それを特等席で 他の人が眺めることのない絵を 春希は堪能しながら言葉を返す

「たまにはこんな滞在先もいいかと思ってな。ほとんど他の人と会うこともないだろうし、しかも東京からも遠くないわりにいい場所だから。」

「ああ、それもあるけどもこうしてちょっとした島なのがいいな。少しだけ都会の喧騒を忘れられそうだ。」

都会の喧騒などといったものに縁のないはずのかずさが漏らすこの言葉

春希は静かにこの一枚絵を眺めつづける

言葉にする必要のないものたちがいくつもあるから

水を差すこともなく

静かにその言葉に一つだけうなずく

「なんていうか、海の色とか聞こえてくる音とか風の感じが日本、なんだよなぁ・・・。」

呟くように続けるかずさの言葉を春希は静かに聞く

視線は変わらずその一枚絵

「といっても母さんに連れられて行った海なんてほとんど記憶に残ってないんだけど。」

「むしろ、その時にお前が何をしていたのかは気になるかな。」

春希としてはなんとなく答えは分かっているけども

「ホテルの部屋の中でゴロゴロしてただけだな。海に入るのも面倒だったし、だからといって日差しが強くて暑いばっかりの浜辺にいる理由もないし。」

「予想通りの答えだな、ほんと。で、今回はどうするんだ?泳ぐとはこっちも最初から思ってないけどさ。」

「あ~、特に希望はないぞ。のんびりできればそれで充分さ。ただ、折角春希が熱心に選んだ水着くらいは着て見せてやらないと、とは思ってる。」

「そこはかとなく誤解の招く表現が入ってるのが気になるんだが。お前が選ぶ気がないから俺が選んだ事実を棚に上げないでくれると助かる。」

「どうせあたしはどんな水着だってどうでもいいんだから、それなら春希が好きなものにした方がお互いに嬉しいじゃないか。」

軽口と軽口の応酬

「お前の場合、本当にどんなものを選んでも着そうだからこっちでちゃんと選ばないと、という謎のプレッシャーに押しつぶされそうになってたんだぞ。挙句に大抵のものは似合うから却って迷う羽目になったし。」

「そもそもあたしの場合、サイズの問題からいうほど多くの選択肢もないだろ。母さんにはよくなんでスリーサイズがこんなに違うのかと文句言われてたくらいだ。」

「デザイン的にはそう多くはなかったけど、色合いまで考えるとなんだかんだ考えさせられた。しかも、変なのを選ぶと着るくせに文句言うだろうし。」

「春希のセンスだから、そりゃ仕方ない。だから、最後はあたしもアドバイス出してたじゃないか。」

「むしろ、そのままかずさが決めてくれよとか思ったくらいなんだがな。」

お互いの言葉にわざわざご丁寧に返す

「それはダメだろ。そしたらあたしの楽しみがなくなる。」

「そんな楽しみは海に流しくれていいぞ、ほんと。」

「そういうわけにはいかないな。なにせ最終的にあの中からどれを選んだのか今だって結構楽しみなんだから。それは明日までとっておくとしても、興味はわく。」

「目の前の海に興味を示してくれてればそれだけでいいぞ~。」

旅先でも繰り広げる 変わらないこの日常会話

「自分でいのもなんだが、あたしが海にそこまで興味示すわけないだろ。一人だったら始めからこんなところにきてないさ。」

「かずさが一人だと海どころかそもそも外出さえしない引きこもりなのは知ってるから、海に見惚れて、なんてないのは分かっちゃいるが、折角来たんだから少しくらいそっちに興味持っていてくれていいぞ。」

「もう充分堪能したさ。」

「はやっ!?・・・長くはもたないと思ってはいたけど。」

「それに・・・わかってるだろ?長く眺めていると、よそ事を考えそうになるからな。」

それはお互いに分かってるから

だから春希はさっきのかずさの言葉に静かな同意するだけで何も言いはしなかった

水着の話で 少し間を持たせて でも会話することで静かに考える時間をつくらなかった

都会の喧騒が何を意味しているか、わからないはずがないのだから

「そういやかずさは大浴場とか露天風呂とか入るのか?」

「あたしが一人でわざわざ入りに行くわけないだろ。シャワーで流すならまだしも。」

「だよな、やっぱり。」

それたようでそれていない会話

ただ、無理にこれ以上そらそうともしない

そんな絶妙な 着地点

「だから今日も部屋にある風呂で充分だ。」

「それだとあまりいつもと変わらない気はするんだがなぁ。」

そんなこと言いながらも春希だって最初から分かっていたこと

「そもそも他人と共用だと下手すれば騒がれるからな、わざわざそんな面倒な事態を引き起こすような真似はしたくない。というか、あたしになんのメリットないことをする方が変だろ。」

「論理的にはそうかもしれないが、それだと温泉の存在意義が問われかねないんで、同意はしづらいな、うん。」

「あたしには温泉のなにがいいのかよく分からんからしょうがない。母さんは好きみたいだけど、あの人はそもそも温泉め当ててなのかついでなのか微妙だしな。」

絶妙な細い道をうまく行きながら続く会話

「大人になれば集まる目的にするのにちょうどいいんじゃないか。」

「海、山、より温泉か?若さがないよな、それって。」

かつてを繰り返してるかもしれない話をする

東京から離れて

海の音を聞きながら

夏の潮風に吹かれながら



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「冬馬かずさ」の夏

セミの音がいくつも響き渡り

外はゆっくりと空の色を変える

誰もが想像する夏の一幕



けれども あたしには

これは夕暮れじゃない

あたしにとっては夏の朝のこの景色こそ

冬馬かずさの夏 なのだ

早朝のこのひと時こそが・・・



子供のころからピアノ漬けなあたしには外で遊ぶという時間が当然なかった

だから夏の夕暮れというものについて、あまり感覚がないというか、よく知らないが正しいんだと思う

そんなあたしに夏を感じさせるのがこの夜明け

涼しい風と共に セミの鳴き声が ひぐらしが 聞こえてきて

空がゆっくりと青白くなっていくこの時間

他の季節では味わえない このひと時が

あたしにいつだって 夏を感じさせる

人とは違う 一人で 独りの 夏の夜明け

それが 冬馬かずさの夏 だった

そんな夏を感じるこの瞬間を 誰かの隣で迎えることになるなんて

孤独じゃなくて 愛する人の腕の中で迎えるなんて

そんな日が来るなんて 思いもよらず

子供の頃のあたしにそんなことを言ったら どんな顔をするだろうか

そう思うと笑ってしまいそうになる

父親の顔も知らないあたしは 母親を反面教師にしながら 母親以外の人間に興味を抱いていなくて

母親に認められるピアニストになるためだけに生きていたようなあたしに

そんなことを伝えるのだ

とても とても 味わいのある表情するんだろうなって

自分で解っているからこそ 笑ってしまう 笑えてしまう

ついでにいえば しかもそれがよりにもよって 北原春希だなんて

どんなやつか説明した日にはなんの冗談だと思うだろうし

頭がおかしくなかったのか、と過去の自分に言われるだろう

あたし自身、そう思っていたのだから



でも あの夏に変わったんだ

世界から色をなくして 二年間さまよって 

その先に行きついた場所で 待っていたもの

そいつにあたしは変えられた 

他者に興味をもってなかったあたしを 夢中にさせやがった



ああ、あの夏にあたしは隣りの奴に夢中になった

そのせいで夏の朝 あたしは孤独を感じる暇もなく

どうやって音楽を教え込むかを考え続け

気づけば夜が明けていたり 寝ていたりと

ピアノから離れていたあたしに久しぶりの忙しい日々を寄越した

そんな独りであるこを忘れた夏を過ごした

しかもそれだけじゃなくもう一つ

ピアノを弾く理由をさえも あたしの根幹さえも変えさせられた、そんな夏だった


それから、その夏を超えて また夏がきたときは

既にあたしは東京にいなくて 全く別の夏を過ごすようになり

独りの夏に戻った

かつてはあれほど望んだ母親と一緒の海外へ行けたのに

独りに戻ってしまったのだ

また、夏が始まっていた

1人で独りの夏が―――



でも今はこうしている

この東京で、あの頃と同じように夏を感じている

明けゆく空は色が移り変わり

セミたちが必死に音色を奏で

あの頃と変わらない夏の朝



そこに もう一つ 穏やかな吐息が加わった

規則正しく 穏やかで あたしの心を暖めてくれる

孤独でないと教えてくれる

春希の寝息 が、加わった



「冬馬かずさの夏」から、「北原かずさの夏」になった



空がゆっくりと色を変え

セミがいくつもいくつも鳴き

ヒグラシがあの独特な音を奏でる

夏が 今年も やってきた


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修司と葵のそんな一日

「なぁ、葵。本当にダメか?少しくらい、いいだろ?ほら、多少の刺激は脳の活性化にもいいっていうしさ。我慢は体によくないし、集中力を阻害する要因にもなるから、解消した方がいいだろ?だから、な?」

「何でもいいけど、あんたその表現の仕方だと絶対に勘違いされるわよ。」

「ん?何が?」

「分かんないならいいんだけど・・・。それはそれとして、何度も言ってるけどあんたはパラメーター偏り過ぎなの。あんたにトレーニングが必要な部分は筋肉じゃなくて脳みそなのよ、脳みそ。だから、体を動かす前に脳みそを動かしなさいよ。」

「おっしゃることはごもっともですが、ほんの少しでいいですから、体も動かさせてください・・・。」

「どうせ、夜には一人でトレーニングするんでしょうから、昼間は学生らしく脳みそ鍛えるのに費やしなさい。」

「・・・はい。」

「全く、運動させろ運動させろって、檻の中にいる獣じゃあるまいし。いくら最近下半身がケダモノに近づいたからって上半身までケダモノにならなくていいんだからね。」

「いやその表現は色々と差し障りが有りすぎだろ!?」

「でも内容は間違ってないじゃないエロ修司。」

「そりゃ昔に比べたらそうかもしれないが、これでもそれなりに自制効いてるつもりなんですが・・・。」

「そこは否定しないけど、する時はかなりのケダモノ度なんだし、あたしは間違ってないと思うわよ。」

「そこはお互い様かと思いますが?・・・そもそも俺から手を出すことってかなり少ないし。」

「うぐっ・・・、そこは確かにそうなんだけど、でもしてる時は修司はすっごいじゃん!ってこと。」

「・・・それは葵もじゃないか?」

「はぐっ・・・、や、そ、わ、私が言いたいのは、序論はそうかもしれないけど、本論の後半から結論に至るまでにおいては修司の方がこうガンガン行こうぜみたいな・・・!」

「落ち着けって。なんか色々と混ざりすぎだろ。それに俺がソフトにすると葵だって不満になるからさ。」

「・・・あー・・・うん、それはあるかもしれない・・・けど。」

「だからお互い様ってことでいいんじゃないか?」

「いや、待てよ。てことは、結論としてはあたしの方がだらしないってこと?」

「・・・一般論でいえば、生活習慣に関しては割とその傾向があるかもな。」

「しかもフォローなしか!?ええ、ええ、どうせあたしは体も生活習慣もだらしないですよ、どうせあたしはだらしない女ですよ!」

「だから落ち着けって。それだとかなり誤解を生む表現になってるから。意味が違うように聞こえるから!」

「だってだって・・・!あんたの周りにいる女の子はみんなスタイルが引き締まっていて、あたしみたいにプ二ってないし!それにあんたとするのも思い返してみれば誘うのはあたしからだし、さらに私の方がそういう時により、そう、なのかと思うと・・・!」

「確かにそこら辺は否定できる部分は少ないかもしれないが、そもそもの趣味が違うわけでして・・・。」

「どうせ修司たちに比べたらわたしはインドア派よ、若さ以外に健康的な要素がない体よ!」

「いつになく自虐的だな、おい!だれもそこまでは言ってないだろ、そこまでは。」

「でも、どうせ思ってるでしょ!?」

「えっと、まぁ、その・・・。」

「ほら!目をそらした、やっぱりそうなんじゃない!」

「嘘をつくのはよくないかな~って。」

「あんたそういう所はバカ正直よね、ほんと!そんなんだから、無神経とか、鈍いとか、修司だもんねぇ、とか言われるのよ。」

「微妙に否定しづらいセリフ並べるの卑怯だろ。しかも最後のはどうせ天音さんだろ、それ。」

「だったら何なのよ。というか、天音さんだけじゃなくてこれみんなにも通じるくらいなんだからね。つまりそれだけ修司は修司なのよ!」

「訳が分かんなくなってるから!そもそも話が壮大にズレてるから!」






「あの2人、勉強するんじゃなかったのかしら?」

階下でお茶を飲むツバメは
階上で繰り広げられている痴話喧嘩らしきものに呆れながら
そんなことをもらすのであった



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北原家の日常~両親から見た子供たち編~

「なあ、春希はどう思う?」

GWも終わったことでピアニストとしての繁忙期も過ぎ、ようやく夫婦でゆっくりできる夜がきたことで
2人、ベッドの上で仕事で疲れた体と心を癒すように
抱き合いながら 余韻に浸っている
ある意味いつもの夜

そんな時にかずさがふともらした言葉

「主語を入れてくれたのは助かるが、目的語もいれてくれ。さすがにそれじゃ言葉足らずで分からん。」

春希の返答は簡潔かつ、明確
いくら春希でもどう思うかだけじゃ何のことか分からない

「あいつらのことだ。」

「ああ、子供たちのことか。でも、どうってどういうことだ?」

かずさも簡潔に返したが、春希はそれで充分何をさしてたかは分かる
ただ、意図が分からないのは変わらずもう一度聞き返す
そんな2人の会話は独特のテンポを維持している

「んー、あたしも具体的にどうっていうのがききたい訳でもない。特に問題があるような生活もしてないから、言うこともないんだが、たまには春希の考えもききたいなって。」

一般的な家庭からすれば到底考えられないセリフだが
そこは元は冬馬家のかずささん
家族関係に不器用な家の出身だけあり苦手分野
知識も経験も乏しいから下手に親として干渉する真似は控えているのだが、結果として接する時間が短くなっているために、こうして折々に子供たちのことを春希にきく

「GW中は俺も忙しかったから詳しくは分からんがいつも通りだろ。家事は手伝ってくれるから助かったぞ。」

その春希もGWまではかずさのための業務で忙しく、子供たちと接する時間はあまりなかった
印象に残ってるのは家事を手伝ってくれて助かったというぐらい

「・・・今となってはできないのはあたしだけだからな、どうせ。」

そんな春希の答えにかずさはそっちがちょっと引っかかる

「子供たちは2人とも家事は万能だからな。忙しさの違いから量は違うが。」

「そこなんだよ。妹もあたしと違って意外と家事万能なのが驚きだ。」

そう、驚きなのである

「むしろかずさもやればできるってことだと思うがな。お前も妹も俺らと違って天才肌だし。」

春希とかずさの共通見解として、わりと息子は父親に、娘は母親に似ているというのがある
だからかずさとしては自分に似た娘が家事を苦もなくやってのけるのを見ていると、違和感というかいたたまれなさがある
しかし、春希にしてみれば意外とやればなんでもすんなりとできるというのはかずさに資質が似ている娘なのだから違和感がない
かずさだって理由と状況があればすぐにやれるようになるとは思ってる
単にその必要がないだけで

「やればできる、ねぇ。息子の音楽みたいなものか?」

「あ、そうそれ、そんな感じ。本人は無自覚だけど、やればできるあたりなんかまさに。」

もう一つの共通見解が実は息子の音楽の才能
本人はないと思ってるらしいが実は結構あると他の家族は考えている
単に身近にいる比較対象が飛び抜けすぎているだけなのだ

「やればできる、か。そうは言われても今さら過ぎるけどな、あたしとしては。」

「だろうから俺もやれとは言わないさ。正直、一般的な家事の常識を一から教えるのも面倒くさいし、現状3人もできる人間がいるから、これ以上必要もないしな。それに兄妹仲良く家事をやってる時間を削るするようなことはしたくない、妹から恨まれる。」

そう、妹にとって家事の時間こそ兄妹仲良く一緒に何かをできる時間
それを妨げられるのはとても嫌うし、数少ない兄妹喧嘩の数少ない理由のうちの一つであるくらい

「お兄ちゃん子だからな、あの子は。」

そんな妹を言い表すのにこれほど適切な言葉はないと考える両親

「他に甘える相手がいなかったから、そうなるのも仕方ないと言えば仕方ないだろ。」

「それもそうなんだけど。でも、ま、お互いうまい具合に性格も違って支え合ってるんだし、欠点を補い合ってるんだからいいじゃないか。お陰で妹の学校生活も順調ときたもんだ、となるとやっぱり言うことがないか。」

「その点はかずさの功績でもあるだろ。まさか妹に普通科を勧めるとは思わなかったし、しかもそれが結果的には当たりだったんだから。」

春希は思いもしなかったが、かずさに言わせればむしろその方がよほどいいと思っていた
なにせ

「いやだって、普通科ならお兄ちゃんがいる。そして何より音楽科行くには才能が有りすぎるし、そのくせ周囲にはライバルになりそうなのはいない、しかも教師もいないときたもんだ。だったら普通科に行った方がプラスになるだろ。音楽科いってあたしのようになって欲しくないからな。」

ということだから。
かずさは自身の経験からも導き出された結論が普通科の方がよっぽど良い、だ

「さすがにかずさのようにはならないと思うが、その環境では本人の為にならないのは同感。それに個人的な体験から音楽科の生徒に良いイメージがないのもあるしなぁ。」

第二音楽室の主を探したかつてを思い出しながらのセリフ

「実際にプライドばかり高いやつが多いぞ。でなければ音楽科をわざわざ選ばないだろうから。そんなだから避けた方が余計な気を使わずにすむ。それに勉強もできないわけじゃなかったから、普通科でも問題ないと思ってな。」

「そこはそうだな。とはいえ、俺でも兄の上をいく成績になるとは思わなかったし、結果的には大正解だったな、それ。」

「まったくだ。春希も無駄に母校へ行かなきゃならないような事態にならなかったわけだし。」

「いや、さっきも言ったがお前と違ってそこまでのことにはならないからな。どっちにしろ、お兄ちゃんのサポートがあるんだから。」

「確かにそれはあるか。・・・むしろそういう意味じゃ、上は春希を見本にするような人生でいいのやらと思わんでもない。欲がないというか、目立つのは平気な癖に、人のサポートが得意とかそういう所は似なくていいと思うんだがなぁ。」

母親としては今の気になる点はそこにある
十代からそんなに小さくまとまらなくてもと思わないでもない
もう少し自分のことを優先してもいいはずだ

「そりゃ才能がある人間はそう思うのかもしれないが、身近に自分より遥かに才能がある人間がいればそうもなるさ。我が家にいる人間も来る人間もそんな人たちばっかりだし。」

「環境がよくないのはまさかの上の方だったか。」

「かもな。本人はそんなことカケラも思ってないだろうが。」

「それこそお前によく似てる。春希だってなろうと思えばもっとこうでっかい会社のお偉いさんにだってなれただろうに。」

「会社は小さいがその分好きなようにやらしてもらってるからそれでいいさ。それに元々偉くなりたい訳でもないし。親子揃ってお節介なだけだ。その甲斐がかずさや妹のように才能を存分に発揮してくれているなら、それ以上に嬉しいこともやりがいもないって思うくらいには、な。」

「根っからの裏方思考だよ、お前も息子も。」

「そこら辺は親子だからな、しょうがない。似なくてもいい所まで似るのが親子ってやつなんだろうさ。」

「そうかもしれんな、春希に言わせればその最たる例があたしと母さんの味覚だろうし。」

「・・・本当にそこの負の連鎖を断ち切れて心底ホッとしているのは事実だけども。」

「だろうな、まったく。そのせいであたしには薄味な食卓になりがちな上に、兄妹旦那と口をそろえてあたしの味付けを制限かけてくるのには閉口するよ。」

「それだけみんな家族が大切なんだよ、だろ?」

「そう、だな。そんな所はやっぱり家族だから似てるな、母さんもあたしもお前も子供たちも・・・。」

そんなことを口にしながら そろそろ限界を感じてそっと家族の腕の中で目を閉じるかずさ

「さすがにもう眠いんじゃないか?」

「ああ、さすがにな。色々とエネルギーを使い果たしてるし。」

「なら最後に言っておくことは、家族みんなで何事もなく過ごせているんだ、大丈夫だよってことで。」

「そうか、それなら今夜も安心して、寝るとするか。・・・またの機会に、あいつらのことも聞かせてくれよ?」

「もちろんだ、お前は母親なんだから。」

「ああ、んじゃおやすみ・・・。」


そういいながらあっさりと眠りにつくかずさをそっとなでながら
春希も目を閉じる

そんな どこにでもありそうな 家族の一幕が 北原家にもあるのだ。


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プロフィール

海雪 海辺月

Author:海雪 海辺月
現在、White Album2 SS、特に冬馬かずさ SSを執筆がメインです。
目次はカテゴリーの未分類においてあります。
Eメール:umiyuki_4s@yahoo.co.jp
@を半角にしてください
メアド載っけてないことに今さら気づきました・・・

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