夏のある日

かずさにしては珍しくご機嫌だ
といっても、かずさがご機嫌なのが珍しいわけではない
正確に言えば、かずさが外出しているにも関わらず、珍しくご機嫌だ、が、正しい

基本、出不精で面倒くさがりのかずさが、喜んで出かけるということは非常に珍しい
だが、今日はそれも当然でようやくやってきた
気兼ねなく2人で外出できる日だ
かずさの機嫌が良くても当然だろう
なにせ久しぶりの、仕事じゃない
マネージャーとアーティストでじゃない
夫婦として出かけられる
しかも、ここは日本
その喜びの大きさは春希だって分かるし
春希だって実際のところは同じ気分、なのだ

「春希と買い物も久しぶりだな」

「そうだな、あれ以来だから、二年振り以上・・・だもんな。しかも、夫婦でってのは初めてだし。」

「そこが重要なんだぞ、今日は。」

「大丈夫、分かってるよ。」

2人で言葉を交わしながら真夏の炎天下の街を行く
普段なら考えられない
むしろ、日頃の生活から考えれば2人にとっては荒行ともいえることをしているのに
その足取りは軽く、“あの”冬馬かずさとは思えないはしゃいだ雰囲気
それが、春希には嬉しくもあり、懸念もある

「だけど、あんまりはしゃいで目立つ真似は控えてくれよ?」

「何か問題あるか?」

「問題ないと思うほうがおかしいのだが。」

日本に帰国したことを公開したことで再び注目を集めている冬馬かずさが
街中で目立てば当然気づかれるし、騒ぎになりかねない

「だけどようやくこうして外を歩けるようになったんだから、今日くらい、いいじゃないか。」

ただ、かずさはようやく念願かなって
日本で、生まれ故郷で、思い出の欠片が眠る東京で
春希の隣を歩く あの日のように買い物にでかけられる
その喜びはどれほどのものか

「そりゃ、あれが出たから外出は解禁にはなったが、そのせいで却ってバレたらそうとう目立つぞ。」

「でも、まだ完全に世に出回っているわけではなくて、その僅かな時間を利用しようというせこい作戦だろ。」

「せこいとか言わんでくれ。マネジャーとしての努力だ。」

「なら、あとは夫としてあたしを楽しませる努力をしろ。」

「いや、だからこうして外出してるだろ、2人で。」

「それだけか?」

「他になにあるか?」

「・・・ま、いいか。春希だしな。」

そういってかずさは春希の手を取り先導をはじめる
そもそも、春希に女性を楽しませる配慮をしろというのはハードルが高すぎる

「で、どこに行くんだ?」

「あ~、特には考えてないぞ。夏物の服とかは気になるが、家にも探せばまだありそうな気はするし。」

「かずさにしては本当に珍しいな。目的もなくこうやって出かけるなんて。」

「そうでもないぞ?昔から、とりあえず何を買うでもないけど買い物はよく出かけてたもんだ。」

「・・・マジ?」

「ああ。どうせ、家にいても暇だったんでな。」

「あ、そういう理由ね。」

一般的に、ストレス解消手段として物を買うというのはよくあること
かずさの場合、それだけではないだろうが
当時、暇を持て余してたことを含めて買い物にはよく行ってたというのは納得できる

「でもお前、何を買ってたんだ?」

「ん?服とか食べ物とかてきとうに。」

「だから、あんなに服もちなのか。てっきりお母さんの仕業かと思っていたが、かずさのせいだったとは。」

「なんで母さん?」

「だって、包装したまんまとかあったからてっきりわざと開けてないのかと。」

「ああ、忘れたり面倒でそのまんまとかだろ。」

「さすが金持ち・・・。」

「というより、あの時は何せ母親の金っていうのがあったからな。」

「それもそうか。おかげで、服については向こうでも困らなかったからこっちは助かったけど。」

「なるほど、それでか。春希が出してきた服が新しい割りにセンスが悪くないと思ってたんだけど、あたしが自分で選んでたやつだったからか。疑問がようやくとけた。今夜はよく寝れそうだ。」

「言ってろ。・・・それに戻ってきからはいつもよく寝てるだろ。」

「ま、な・・・。」

逃げるということは罪を重くする
それは心の中でも変わらない

「・・・それより、今日の買い物は服にするか?夏物がもう少しあってもいいし。」

だけど、今は逃げるのをやめた
苦しみながらも向き合うことにした
その代わりとして、こんな風に過ごす時間を得られた

「いや、どうせなら夏対策グッズを見にいけばいいんじゃないか。」

「ふむ、かずさにしては有効な提案だ。」

「さすがにこの暑さだからな。久しぶりの東京の暑さはなかなかこたえる。」

「向こうと違って、気温は高い上に、蒸してるんだよな、ここは。」

「だな、一番はこの蒸し暑さだ。・・・東京に帰ってきたんだ・・・って思う。」

「懐かしいか?」

「さすがに、な。・・・この蒸し暑い中、我ながらよく出かけていたことも、だけど。」

「・・・学校に、だろ?」

昔なら、わかっていても聞きはしなかっただろう
だけど、ここは東京ならば

「ああ、そうだ。どこかの誰かのヘタクソなギターが許せなかったからな。あれは音楽に対する冒涜だった。」

「相変らず、その件になると容赦ないよな、お前。それ何度目だよ。」

「いやあれは誰だってそう思うぞ。音楽やってる人間ならとうてい許せるものじゃない。」

「独学で見様見真似じゃうまくならないってのだけは実感したよ、今はともかく。」

「予防線張りやがって。だが、確かに独学でできるようになるのは日頃から音楽に触れてたたやつだけだ。」

「家は特に音楽には縁がなかったからなぁ。」

「ま、あれのおかげでおかげでお前のこと、色々知れたけどな。」

「・・・ 具体的にはきかないでおく。」

「それが賢明だ。」

「はいはいどうせ格好悪いですよ。こっちは助かったからまた頼もうと思ったのに、お前は一回しか来てくれないし。」

「そう何度も行けるか。それに隣にはいつもいただろ。あの時は、まぁ、そのなんだ、夏休み前のことがあったから・・・。」

「夏休み前?夏休み前、夏休み前・・・。」

「覚えてないのか!?」

「そんなに大事があった記憶はないぞ。」

「なんだと!?・・・気にしてたあたしが馬鹿みたいじゃないか。」

「そんなになんかあったか?」

「・・・だってあたし、終業式の日にお前を邪険にしたし。」

「・・・されたっけ?」

「思いっきり睨んだら、お前怯んだ顔をしたじゃないか。」

「そんなことあったか?というか、別に珍しくもないだろ、そんなこと。」

「それは・・・!そうだっかもしれないが、夏休みに入ったら会わなくなるじゃないか。だから・・・って。」

「ん、そうだったのか・・・。それでわざわざあの日教えにきてくれたのか。あれは結構驚いたからさ。」

「あの時はそんなこと考えたんだよ。当時のあたしにして随分思い切ったもんだ。今、思えばあの時のあたしはとんだ取り越し苦労したもんだけど。」

「取り越し苦労?」

「春希がそんな簡単にお節介を諦めるわけないのを理解してなかったからだ。」

「ああ、そりゃそうだな、特にかずさのことなら。」

「だろ?なのにあの時のあたしは夏休みに入って会わなくなったからって、母さんのこともあったけど、慌ててお前に会いにいくなんて、な。」

「らしくないってか?」

「らしくないってこともないけど。今のあたしに比べれば、さ。」

「今ならそうだな。でもあの時は本当に驚いたし、嬉しかったし、絶望した。」

「忙しいやつだな、春希は。」

「いや、だってまさかかずさの方がうまいなんて思わないからさ、何のためにギターやり始めたのかってなったし。」

「あのな、あたしはこれでも元音楽科だったんだぞ。下地が違うんだ、下地が。」

「全くだな。おかげで当の本人から教わることになったくらいだし。」

「あの時はまだ、あたしが隣で弾いてるって知らなかったらしいし、傑作だったよ。」

「締め切ってたし、わかんないだろ。・・・噂とか詳しくなかったし。」

「・・・今度、あそこにいってみるのもいいかもな。」

「・・・だな。2人で、さ。二年前とは違うからこそ、何かが違って見えるだろうし。」

「ああ。・・・だからあの日のことは、あの時のことは、それまでとっておけ。」

「ふむ、つまりここからはかずさを楽しませるのに集中しろってことか。」

「春希もそこら辺ぐらいは読めるようになっただけ、進歩したか。あたしの教育の成果が出てきたようだ。」

かずさから教わったことなんてあの日々のギターくらいなもので
だがそれを避けることなく話せるようになったのは
先ほども話していた通り、もう逃げることをやめたから
だから、こうして2人は、夫婦のまま外を歩ける


そんな夏のある日




~~~~~~~~~~~~~~~~
The Day Afterと並行して書いていたのもあって
やたらと進捗が遅いですが、ようやく短編できました。
甘味があまりないですが、夏のある日で、過去を語れる2人です。
去年のものよりも、2人が少し前向きなのが、特徴かもしれませんね。

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プロフィール

海雪 海辺月

Author:海雪 海辺月
現在、White Album2 SS、特に冬馬かずさ SSを執筆がメインです。
目次はカテゴリーの未分類においてあります。
Eメール:umiyuki_4s@yahoo.co.jp
@を半角にしてください
メアド載っけてないことに今さら気づきました・・・

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