The Day After 32


明けて朝
いつものように春希は起きて、ご飯の支度をし
昨日の今日でも変わらぬ春希に
雪菜は「先は長そうだよね。」と苦笑することになった

そんな風に始まった1日

今は朝食後の眠気と、ダルさに身を任せている6人は何をするでもなく、ぼんやりしている

会話も特になく、ポツリとポツリと言葉が飛ぶくらいな、酷く緩やかな時間

昨夜の部屋割りのままリビングに座っていることで
春希とかずさの間が離れているために
会話が少ないのかもしれない

そんな空気の中だから
春希としては言い辛くはあるのだが
日頃なら、かずさはそろそろピアノの練習をする時間なので
どうするかはきいておきたい
やらないということはないから
遅くするのかしないのか、だ

「なぁ、かずさ。今日の・・・。」

「もう少ししたら、始めるつもりだ。」

「ん、分かった。」

春希が聞きたいことを言う前に察して答えるかずさ
そのやり取りだけでは気になる他のメンバー

「何を始めるの?」

雪菜は質問をしつつも、何となく想像はついていた
目の前にいるのは冬馬かずさ、だ

「ピアノの練習だ。」

率直に答えるかずさ
そのかずさの姿に、特別なことなど何もないという雰囲気に、雪菜は思う

これがピアニスト、冬馬かずさなんだって。

かつての不良少女、冬馬かずさとは違い
ピアノに真摯に向き合っていて
日々練習し、ピアニストとして生きている
雪菜自身、かずさが本気でピアノに向かい合って弾く姿を見たことがなかった
あの頃は、彼女は楽しみながら
私たちの為に、私たちにあわせてピアノを弾いていた
曲だって、あの三曲で
クラシックなんてせいぜい合間に、何の気なしに弾いていだけ

そして、ピアニストになってからは
二年前に一度だけ、後は今年になってから。
ピアノに触れる姿は一度も見ていないし
何よりも今はピアニストとしてよりも、北原かずさという姿が目に付くため
ピアニスト冬馬かずさをこうして見るのはあれ以来だと感じる

そう、二年前のあの日、以来、だ

あの日のことはどこか遠い
夢の中のことのような気がしてるけれども
あれは現実だったと思ってる
ピアニスト冬馬かずさがピアノを捨てようとしたのを許さなかったあの日
その時、かずさはピアニストだった
でも、ピアノに向き合ってる姿は見ていない

それは今になっても変わらない
この二ヶ月近くの間
ピアニストとしての姿は一度も見てないままだ

だから、そのかずさがピアノを引く姿を是非、見たいと思う
お遊びじゃない、本気で向き合う姿を
ピアニスト冬馬かずさを見たいと。

それは、同時に北原かずさの姿を見ることになるはずだから。

「ねぇ、かずさ。・・・かずさがピアノを弾いてるところ、見てみたいんだけど。」

「あたしのピアノを聞きたいのか?」

そんな雪菜の真剣な思いが乗った要望を聞いたかずさは
内心、かつての春希と同じことを言いやがると思いつつも
わざと軸をずらせて訊ね返し
それに気づきながらも雪菜はその意図を無視して率直に言う

「ううん違う。見たいの。かずさがピアノに向かう所を。」

「・・・そう、か。練習風景とコンサート、どっちが希望だ?」

「あ、そこまで考えてなかった。う~んどっちがいいかな?でも、できれば両方。」

「春希、次のコンサートはいつだ?」

「え?ああ、えっと、夏にやる予定。」

「だ、そうだ。」

「分かった。まずはそれかな。その後に、できれば練習風景も見たいかな。」

「・・・考えておく。」

周りの人間を置いたまま
2人だけで話しは進んでいった
中身を正確に理解できるのは春希だけで
後の三人は雪菜がかずさのピアノを弾く姿を見たいということしか分からなかった
その下に眠るもの、北原かずさと冬馬かずさが重なる姿を、見たいと言っているのだと分からぬまま、話は終わる

「それにしても夏って具体的にはいつぐらいなの?」

もう五月の頭。あと一月もすれば夏になる

「七月の連休当たりを狙ってる。そろそろ動き出すけど、場所と日にちの空き具合だからなぁ。しかも今回、表立って動くのはおれじゃないし。かずさの名前を隠して進めるから、苦戦しそうだしな。」

冬馬かずさの名前を前面に出せるなら
色々と融通はきく
冬馬曜子が病気であることが
冬馬かずさの名前をさらに知らしめた
後継者として、かずさは脚光を浴びることになったからだ
世界、とりわけ本場ヨーロッパで活躍しているのもさらに日本人の心をくすぐる

実際には活躍といっても
あくまで若手の中で比べると、ではある
それでも、ヨーロッパで一人
かつての母親のように挑戦し続ける美人ピアニストという姿は
とても絵になることに違いはない

だから、冬馬というブランドは
日本において、あちこちで非常に有利に働く
だが、今回はまだそれを使うことができないという弱点を抱える
なので、一番狙い目な連休に入れられるか分からないのだ

「帰国のこと、まだ隠してるもんね。」

「ああ。だから、渉外も思うようにやれないし、俺もまだ前面に出れないんだよ。」

そして、現在はまだ日本でなら春希が動いてもそうそうばれたりはしないが
海外メディアにかぎつけられると、一発アウトなために
春希は雑誌発売まで控えている予定
海外メディアがわざわざ日本にきてまで探るほどのレベルにかずさはまだいるわけではないが
たまたま別件から耳に入ったりする可能性もある
それに、春希が出て行かなくてもなんとかなるなら
わざわざリスクを取る必要はないだろう

「うん、分かった。・・・。」

そこから、言葉を続けられなず、そうとしか答えられなかった雪菜
楽しみにしてるなんて言えない
覚悟を決めておくとも言えない
建て前も本音も言えないまま
静かにかずさを見つめるだけ

そこに込められた思いと
その目が語ってしまうことは
あまりに深く複雑で
とても言葉で言えることなんかないもの

それはかずさだって分かっているから
やはり静かに雪菜と視線合わせ
受け止めるかずさ

そんな2人に、周りは口を挟めるはずもなく事のなり行きを見守る

先ほどと同じように静かながら、雰囲気は真逆

誰もが張り詰めた沈黙の中
各々の想いを 心の中で語る

その沈黙を破ったのは、受けて立つ側になったかずさ

「それじゃ、あたしはピアノの練習に行ってくる。」

「そっか。じゃ、私たちもそろそろお暇しようかな。」

2人とも声には出せなくとも語ることは語った
だから、今日はこれでおしまい

そんな、唐突な終わりに慌てて周囲も追従する

「おう、そうだな。今日はこれで帰るわ、春希。」

「邪魔しちゃ悪いもんね。」

「そうですね、今日はこれで。」

「ああ、分かった。また機会があれば・・・。」

咄嗟の社交辞令から始まり
そうあればと思いつつ
でもそれを自分が言っていいのかついためらい、言い終える前にきってしまった春希が
なんとも春希らしい

だから雪菜は、そんな春希に頷いて答えた

「うん、またの機会に、ね?こっちからも連絡するから。」

そして、横で聞いてた武也は
春希のセリフの中途半端さに苦笑半分、ほほえましさ半分な気持ちできき
雪菜の返答に、そうなるよな、やっぱりと思う
そんな姿もまた、七年前のようだから
こうして春希に見送られて、この家を辞すのも、そう。
何度あっても慣れるもんじゃない

それとも慣れたその時こそ、俺たちは何か変われるんだろうか?



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


更新が遅くてごめんなさい。
およそ二週間ぶりという遅さです。

次第にかずさと雪菜な向き合うことが増えてきましたね。
それを周囲が感じてるからこそ、何か変わりそうな、でも七年前と同じようなという複雑さがそれぞれあるわけです。
唯一、それを体感的に知らない朋は、疎外感がありそうな気がしますね。
その分、言いたいこと言える立場でもありますが。
そんなわけで、The Day After32でした

さて、こうしてGW話も終わり、今度はコンサートに向けてです。
なので小春や麻理さん、そして開旺社の方々も出てくるようになるでしょう。
また一つ、春希が日本で居場所を作ることになる予定です。
ただ、構成が白紙なので、どうなるやら~。


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プロフィール

海雪 海辺月

Author:海雪 海辺月
現在、White Album2 SS、特に冬馬かずさ SSを執筆がメインです。
目次はカテゴリーの未分類においてあります。
Eメール:umiyuki_4s@yahoo.co.jp
@を半角にしてください
メアド載っけてないことに今さら気づきました・・・

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