夢の雫が心を濡らして

人は夢を見る

時に人はその夢の中身を克明に覚えていることがある

寸前まで、それがあたかも現実だったかのようで

情景が、夢の中での想いが 心に波紋を広げる

だから目覚めた瞬間

過去の記憶が、鮮やか過ぎて

震える心が、強すぎて

涙が流れ、想いが止まらない

過去だって分かっていても

あの日の想いが 感情が

あまりに生々しいから

それは現実なんだ―――


「春希くん、目、覚めた?」

「雪菜?」

「そ、私。私じゃ不足?」

「い、いや、そういう意味じゃなくて。」

「うん、ほんとは分かってる。簡単に忘れたなら、それは春希くんじゃないもんね。でも、少し悔しい、かな。あなたが今もそんなにも想っていることが。負けないくらいに想ってることが。やっぱり妬けるよ。」

「・・・ごめん。」

「やだなぁ、謝らなくていいよ。ただ、私が負けないくらい想っていれば大丈夫だよね?って。」

「そもそも、勝ち負けも何もないから。」

「・・・春希くんて、たまに言葉の選択間違えるよね。それ、拾っちゃっていいの?」

「・・・あ、う、その。」

「でも、今は仕方ないか。あの頃の夢を見た後で、いつものあなたに戻っててのはちょっと酷かなって。」

「雪菜・・・、あんまりそうやって何でもかんでも理解されて、受け入れなくていいんだって。たまには叱ってくれたっていいんだからさ。」

「春希くんをしかる?それこそ後でどんな仕返しがくるか分からないからなぁ。」

「あのね・・・。」

「忘れたとは言わせないからね?」

「ごめんなさい、すみません、あれは正直忘れて欲しい。」

「ケダモノになるってああいうのなんだなって、身にしみて分かっちゃったもん、忘れられないかな~。」

「雪菜ぁ~。」

「ふふふ、少し、楽になった。」

「ああ、うん、ありがとう。」

「それなら、もう少しだけ夢の名残に揺れてる春希くんを私があやしてあげるね。」

「いつも、ありがとう。その、本当は・・・。」

「そこから先は言いっこなしだよ、って決めたの、誰だっけ?」

「・・・俺です。」

「自分で言ったことには自分で責任を持ちましょう。」

「はい。」

「それまではこうしてお布団でくるまってるのがいいね。」

「ん、もう少しだけ、こうして・・・・・・・



その瞬間 気づいた

気づいてしまった

これこそが夢のはずだって

あの日にあったことだって

そう思った

それはつまり目覚め

唐突にやってきた覚醒に

布団からはね起き

布団を握り締めたまま

見た記憶に揺さぶられる

体に立つ鳥肌と 心臓の音をなぜか強く感じ

目から零れたなにかが肌を撫でていく

それに気づいたとき

体が包まれた

柔らかく、温かさで包まれた

そして、フワリと鼻に感じた香りの違いに

心がもう一度騒ぎながら

声を絞りだす

「かずさ・・・。」

「何も言うな、分かってる。」

「そうか・・・。」

うなされていたのか、それとも名前を呼んでいたのか

想像する余裕さえない

ただ、かずさは自分がどんな夢を見ていたかを理解し

それでも起こすことなく

彼女は隣で、俺を心配し

心を痛めていたのだろう

けれどもそんなかずさに心を砕く余裕がないくらい

あの日の光景に騒ぎ続ける心を

なんとかフラットに持ち込もうと必死で

かずさの体と匂い 五感すべてでかずさを感じることだけをする

それが、かずさを安心させると同時に

俺を“今”に引き戻す唯一の方法

心も脳も身体も あの日に戻っていたから

必死で時間をまわすことにだけ 集中するしかないんだ

だから、かずさを かずさだけを 描いて・・・


「少し落ち着いたから、もう緩めてくれて大丈夫だ。正直、少し苦しい。」

そういいつつも、まだ肌に残る 頭に感じる 違和感

「あたしじゃないぞ、春希が力を緩めないと。」

「え?」

言われて気づいた 自分がどんなに必死にかずさにすがっていたかを

「大丈夫だから、少し力を緩めてみろ。それでも何も変わらないから。」

「・・・・・・・あ、ああ。」

「大丈夫だから、な?」

「・・・みたい、だ。」

「無理に言葉を返さなくていい。今はただ、あたしの心臓の音だけを聞いてろ、そうすれば、夢から醒めるさ。」

言われたとおり、かずさの心臓の音だけを 目を閉じて 感じる

定期的に繰り返される音と 感じるものとが

心を少しずつ、追いつかせる

今に、あわせていく

それでも、身体のあちこちが違うと叫ぶ

そのために、手が離せなくて 

あの日の残滓が心に波風立てて、騒ぎ続ける

「春希・・・。」

幼子に呼びかけるような 手つきと 声音

それにすがるような俺

それ以外何も分からず なすがまま

ここが異国の地なら ウィーンなら

まだ、救いがあったのかもしれない

でも、東京の片隅で見るこの夢は

俺にいったい何を思えというのか?

俺に何を求めているんだ?

どこからかやってくる自問がさいなむ

そんなものを混ぜて 濁った セカイ

その中で唯一の救いであるかずさにすがりながら

俺はあの日の夢の記憶と戦っている

耳に残る声音が 離れないまま

朝が来るまで あの日に彷徨う

「忘れようとするな、むしろ思い出せ、雪菜のこと、一緒に過ごした日のこと。」

「!?」

そのかずさの一言に 世界が急速に戻った

そう あれは雪菜と居た日の記憶の名残だと

それに気づいた瞬間 郷愁が一気に 襲い掛かり

心が即座に今に戻る

「・・・助かった。」

「無理に変に消そうとするから、エラー起こすんだ。意外と思い描くほうが現実に立ち返るぞ。」

「・・・。」

先達のアドバイスに何も言わずに感謝の念を抱きながら
すがっていた手を解き ざわめく心を受け入れながら
懐かしさに涙しつつ かずさの手に触れる

「ん、もう大丈夫そうだな。」

「ああ、なんとか・・・。」

「久しぶりだったから、無理はするな。」

「・・・ほんと、久しぶりだった。しかも、あんなに鮮やかだったのは、珍しい。」

「なんでだろうな、時にそういうことあるもんだ。」

「・・人間ってやつは良く分からない生き物ってことか。」

「夢に関して、いつものうざったい知識はないのか?」

「・夢を見る理由が分かれば一躍有名人だよ。」

「そこまでなのか?」

「いまだにはっきりしてないらしい。一応、記憶の整理なんじゃないか、みたいな話はある。」

「記憶の整理、か。」

「実際のところ、整理してる割には辻褄あわないものもあるから、それも変な話だけど。」

「ああ、あるな。男連れの母さんと何故か修学旅行で出くわしたことがある。」

「それ、実際に会ったことじゃないよな?」

「ないない。しかも母さんの相手が全く覚えてないという不思議つきだ。」

「ああ、そういうのあるある。何故か、部分的に全く覚えてないのってあるよな。」

「だろ?」

「俺もクラス委員やってるのに、何人かしか顔が出てこない夢をみたことがある。」

「それ単に薄情なお前が当時のクラスメートの顔を覚えてないとかじゃないのか?」

「そういう問題じゃない、というかそこまで薄情じゃないぞ。それにクラスメートの顔を覚えてないのは俺じゃなくてお前だろ、高校は特に。」

「それは仕方ないだろ、話したことないやつばっかりなんだから。」

「それはそれで感心するよ・・・。」

涙を流しながらでも 懐かしさと苦しさで心がいっぱいだったとしても
いつものくだらない会話することで、
少しずつ心を落ち着かせるとともに、日常にゆっくりと返る2人

こうして何度も乗り越えてきた

そして、それは今もまた変わらない

繰り返してきて、こうしてまた、ここにいる

それが北原春希と北原かずさ、だから



~~~~~~~~~~~~~~~~
夢はわりと頻繁に見る方でして、実際にこんな感じで昔のこととか見ますね
私は懐かしめば済みますが、彼らはそうはいかないだろうということで
昔の夢を数日前にみた際にアイデアが生まれました。

夢から醒めたつもりが実は醒めていない春希の
本当に目が覚めても、まだ夢から醒めれない姿をえがきました

コメントの返信や、リクエスト状況、長編に関してとか諸々ありますが
眠気と食欲に勝てない現状をお許しくださいませ。

近いうちにまた更新いたしますので、その器械に、また。



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感想

春希はウィーンに居た時もこのような夢を度々見ていたのでしょう。おそらく頻度は少なくなっても、一生見なくなることはない気がします。でもかずさにとっては心配はしつつも春希に頼られているこの状況を喜んでいるといったところでしょうか。次回の更新楽しみにしています。
追記
以前紹介したまとめwikiに載っている「5年後の再出発」が更新されました。雪菜版の「雪が解け、そして雪が降るまで」といった内容です。
プロフィール

海雪 海辺月

Author:海雪 海辺月
現在、White Album2 SS、特に冬馬かずさ SSを執筆がメインです。
目次はカテゴリーの未分類においてあります。
Eメール:umiyuki_4s@yahoo.co.jp
@を半角にしてください
メアド載っけてないことに今さら気づきました・・・

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