波音が過ぎ行く夏を告げる

「なんというか、賑やかだよな。」

眼下に広がる海にはまだ人がいて
夏が終わり行くのを名残惜しむように
海で遊んでいる

それを高台からなんとなしに眺めているかずさと春希

二人がわざわざ海水浴場まで来たのは
海に入るためではない
それなら、ほかの人がいないところに行くし、行かざるを得ない

今回は日本の海に来たのだ
普通の人たちがいる
普通の日本の海を 夏を 感じるために
それだけのためにきた

そのためだけにきた

ここは日本だから

「ここら辺はクラゲがこないからな、少しくらい遅めでも泳げるらしい。」

「そっか、だからこうして人がたくさんいるんだな。」

「観光地でもあるし。」

海に浮く人 波打ち際で遊ぶ人 浜辺で遊ぶ人 パラソルの下でくつろぐ人

色々な人が見える
そんな人たちをぼんやり眺めながら
潮風に吹かれている

運ばれてくる海の匂い それを感じるために
日本の夏を思い出すために やってきた

「みんな誰かと来てるのか・・・。」

「俺たちもだろ?なにせ家族で来てるんだから。」

「家族か、そっか、そうだな、そうなんだよな。・・・でも、あんな風な姿が想像できるか?」

子供連れの夫婦が、子供と一緒に波打ち際で遊ぶ姿を見ても
どこか自分たちとは重ならない 重ねられない

「そりゃ、お前があんな風に子供に接する姿は想像できないけどさ。」

だから春希は誤魔化す

「確かにな。あたしにはパラソルの下で寝そべっているのがせいぜいだろうし。」

かずさもそれにのる

ひどく遠い出来事の気がしてしまうけども
でも、それをはるか遠く こうしてただ眺めているだけの
夢の世界のような話にしておきたくない
でも、それを安易に語れない

そんな単純に全てがうまくいくような
人生を送ったことがないから
つい、考えは深く後ろへ向いてしまいそうになる

だから、2人で言葉を交わすことで
必死に前を向いている

家族連れを眺め続けている

「それにしても暑いな、ここ。」

「かずさの場合、屋外ならどこでも暑いだろ。」

「まぁ、それは。」

「もう少し、外に出てもいいと思うぞ、健康のためにも。」

「真夏に出歩くって健康に悪そうじゃないか?」

「引きこもってるほうが100倍不健康だろ。」

どんなに夏の日差しが強くたって影が消えることはないように
2人にはどんな状況であっても 心が晴れ渡ることはない

だからといって、なにもせずということはできない

記憶に触れることも 季節を感じることも やめられない

「たまになら、こうしてるのは悪くはないけど。」

「だろ?」

いるだけで汗をかき 吹いてくる風は生温く
どこまでも、真夏の風情

今までは決して感じれなかったもの

2人が始めて 一つのことをした 季節

2人の 始まりの夏 を 感じている

「山と違って、涼しくないのもたまにはありだ。」

「せいぜいアスファルトよりもマシなぐらいで、入らなきゃ海辺なんて暑いだけってのは実感できてる。」

汗をかいてる それがよくて

この場にとどまり続けている

「まさか海に来ることで、こんなにも感じられるなんて思わなかったよ。」

「かずさは何年ぶりかだろうからな。いや、そもそも海に来たことあるか?」

「・・・なくはないな。前に母さんに連れてかれた記憶はあるが、どこの海かは分からん。あたしは日帰り、あっちはお泊りと、よくわからん日程だったのしか記憶にない。」

「そりゃまた・・・。」

「海なんてどこも一緒かと思ってたけど、結構違うもんだな。」

「そりゃそうだろ。」

そう、こんなにも違うから

2人は夏の潮風に吹かれている

「春希、今日はこれからの予定あるのか?」

「まさか、さすがに旅行まで来て仕事はしたくいないから、置いてきた。」

「そかそか。」

「その分、工藤さんが悲鳴あげてるだけだろうし。」

「いや、おい・・・春希。あたしが言うのもおかしいが、それはいいのか?」

「耐え切れなくなったらお母さんにヘルプ頼むだろうし、割と今は暇な時期だから大丈夫だと思う。」

「それでなんで悲鳴あげることになるんだ?」

「俺基準で、暇な時期だからかな。」

「なるほど、春希が人でなしのは理解した。」

「でも、それ、本人の希望だったんだよ。」

「・・・どんな希望だ?」

「プライベートで何かあったらしく仕事に生きる宣言されて・・・。」

「春希の周りはそんなんばっかりだな。」

「そのセリフ、頼むから真理さんの前で言うなよ?本当に言うなよ?ネタ振りでもないからな!?」

「あたしは言ったことないぞ。いつも一言多いのは春希だろ。」

「・・・・・・昔のよしみでつい。」

「その後の惨状を考えろ。つい、で済むかっての。」

「それはそれとして、そろそろ戻るか?いつまでもいると焼けそうだし。」

「誤魔化しには触れないでやるが、日焼け止めは塗ってるからそうすぐには焼けないだろ。」

「意外と時間経ってるぞ。日影、動いてるだろ。」

「もうそんなに経つのか、意外だ。」

「それだけ懐かんでたんだろ。」

「懐かしむ・・・か。あたしにも懐かしむことあるもんだ。」

「いっぱいあるさ。まだまだ俺たちは日本にいた時間のほうが長いんだ。それに、思い出とよべるようなものがあるとしたら、それはほとんど日本で、なんだし。」

「そう、真正面から言われるとは・・・な。」

「言うさ。だってなくせないだろ、それは。」

「もちろんだ。」

「だったら言うよ。言うしかない。そうしていくしかない。」

「そう・・・だな。」

「でないと何も変えられないからな。」

「何も変わらなくていいと思っていたヨーロッパとは違うもんな。」

「ああ、その通りだ。」

「・・・だから、景色の見え方も感じ方も違うんだろうな。」

「・・・だって俺たちは帰ってきたんだから。」

「帰ってきた、か。」

「ああ。帰ってきたんだ。・・・日本に帰ってきたんだ。」

眼下では親子連れがパラソルやシートを片づけ始めているのが見える
晩夏の日差しは少しづつ傾き始めており
夏がもう過ぎ行くことを教えてくれる

時間は流れ、季節は流れている

2人にも時間は等しく流れていく

だから、2人は懐かしむのだ

この日本を 懐かしんでいるのだ


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
本当は8月の終わりにアップ予定でしたが例のごとくずれてこんな時期になりました

そんなわけで夏が過ぎ、秋が来るのを2人で感じているSSとなります
季節ごとに思い出のある2人ですから
日本の四季をかんじれば、といういつものパターンともいえるものです

晩夏の海はどことなく特別な雰囲気がある気がしませんか、というテーマでもあるものでした

さて、39.5を書き始めませんとねぇ~

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感想

更新お疲れ様です。
WAの季節では無く夏というところがかずさ贔屓の人間としてはオッと思う所ですね。思い入れの強さとしてはWAの季節の方が強いのかもしれませんが、今回の話に出て来ないもう1人がかつて言った様にそちらは楽しい所だけでは終われないし、2人で振り返るのは何処か後ろめたさが残るのだと思います。その点夏は春希とかずさだけの良き思い出として誰に気兼ねすることなく振り返れるのだと思います。
次回の更新を楽しみにしています。

文庫版も終了

WA2の文庫本最終巻についてのコメントです。それなりに内容についても書いているので、文庫本を読もうとしてまだ読んでいない方は回避して下さい。

WA2の文庫版最終巻を昨日購入し、読みました。コミック虎の穴の特典に小冊子が付くのでそちらで購入、最初にあるカラーページの絵が浴衣を着たかずさと春希だったのでイヤな予感を感じつつ読みだすと案の定浮気ルートの内容でした。春希の壊れてゆく過程が物語の中心で正直肩透かしをくらった気分でした。おそらく前巻まで読んで来た人の大半はかずさか雪菜のどちらかのルートになると思っていた筈です。浮気ルートなので曜子さんの病気の下りは出ては来るけど春希達は知る事無く、曜子さんとノリくんがちょっとだけ出てきてその2人の間で終わってしまいます。
春希と一緒のかずさはまだしも雪菜の出番は少なく、ラストまで春希とは絡みは無しでかずさとは全く無しです。雪菜贔屓にはより不満が残る内容だったのでは。
私の様に不満を持ってしまった人への救済措置?の様な形で丸戸さんの書き下ろしの短編がかずさTreの話です。内容は日本を離れた2人が何年後かはわかりませんが、(少なくとも2年以上は経っているのが2人の会話から分かります)帰国する飛行機を待つ空港内でウィーンに来てからの事を振り返りながら会話するといった話です。この短編がアフターストーリーに反映されるのかな?
特典の小冊子は文庫版の著者である月島雅也氏の短編でこちらは雪菜Treでの春希と雪菜の披露宴の事が中心でほぼ原作に準じていますが最後は実は.....。と言う内容です。
ここまで読んで気付いた人は多いと思いますが、コミック虎の穴の特典付きを買った人のみ2人のヒロインのルート話をちょっとだけですが読めるという訳でちょっと不公平かも
プロフィール

海雪 海辺月

Author:海雪 海辺月
現在、White Album2 SS、特に冬馬かずさ SSを執筆がメインです。
目次はカテゴリーの未分類においてあります。
Eメール:umiyuki_4s@yahoo.co.jp
@を半角にしてください
メアド載っけてないことに今さら気づきました・・・

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