The Day After 39.5

「ねぇ、武也。あんたいいの?こんなとこでこんなことしてて。」

目の前にいる依緒が言う
ただ、そのセリフのニュアンスは悪意あるようなものでもなく
表情と声音はむしろこちらを気遣うようでさえある

いや、ようじゃなくてそうなんだろう

そりゃそうか

毎度毎度彼女ほったらかして、こうして春希たちの問題に首を突っ込み
その時はこうして依緒や雪菜ちゃんといる訳だから
どう考えても こっちも問題

「それこそ今さらだろ。すぐにどうにかなることもないさ。」

「なら、春・・・雪菜たちの問題はどうにかなるの?」

「さぁな。」

そっけない返事になったが本心だ
所詮端役の俺たちで問題解決できるわけがない
本人たちがどうするか、なんだから

「だいたい、なんで今さらそんなこと聞くんだよ?」

「だって、春希も結局は余計な気を回してるでしょ?雪菜があれに気付いたのなら・・・」

「言ったろ、気づかないわけないって。」

「だったら! 余計に、雪菜は春希から離れなくなるじゃん。・・・想われてるって勘違いするじゃん。」

「どこも勘違いじゃないだろ?春希のやることなすことに、感じられるんだから。」

「でもそんなこと言ったってあいつはもう・・・!」

「それは理由になんねぇさ。それで割り切れるなら、最初からこうなっちゃいねぇよ。・・・最初っから、ずっと日本にいた、だろうよ・・・。」

「・・・・・・!」

「春希が言ってたろ。『これが今、俺が雪菜の為にできる精一杯なんだ。』って。『こんなことしかできないけども、できることはしたいんだ』って。つまりはそういうことだ。」

「春希のやつこれからどうするんだよ、どうしたいんだよ。」

「春希、というより、3人は、が主語として正しいんじゃないのかねぇ・・・。」

「かも、しれないけど・・・さ。」

そして、沈黙がおとずれる
そうなるのも無理はない
恐らく依緒も同じことを思い出しているはずだから
その脳裏には、会話が蘇っているはずだ
コンサート前から始まった、俺たち3人の会話

そこで感じた春希の想い

それは、運命の糸がほどけないことを示していたから

それを2人して思い出してしまう

思い出さずにいられないのだ


~*~


「頼みがある」

「藪から棒にどした?そもそもコンサート直前に、お前はこんなとこでこうしていていいのか?」

「ああ、大丈夫だ。昔のことも覚えてるだろ?もう俺がどこにいるかは問題じゃない。それよりも、問題は・・・。」

「雪菜ちゃんか?」

「・・・ああ。」

「どういうこと?あたしにはよくわかんないだけど。」

「おいおい依緒、考えてみろ。それ以外に俺たちをここにわざわざ呼ぶ理由はないだろ?」

「・・・冬馬に聞かせられないってことか?」

「いや、違う。かずさも多分、分かってる、俺が何をしてほしいと頼むかも。そしてあいつは止めなかった。お母さんにはくぎを刺されたけどな。」

「冬馬曜子に?」

「ああ。だから、直接会うことは控えてるんだ。というよりこの後、会うのをなんだけど。」

「この後って、なにがあるってのさ?」

「これからコンサートがあるから。」

「んなこと分かってるわよ。でもそれがなんだっていうの?」

「・・・このコンサートには意味があるんだ。」

「意味?」

「ああ。かずさは単に凱旋コンサートっていうお題目だけでコンサートを開くわけじゃない。これも予め決めていたことでな。」

「決めていた?あっちにいる時からか?」

「ああ。」

「で、何のためだって?」

「答えるためだよ。」

「答える?」

「ああ、答えるためだ。」

「おい春希、それって・・・。」

「雪菜のビデオレターに、答えるためだ。軽音楽同好会の仲間としてじゃない。ピアニスト冬馬かずさとしてでもない、・・・北原かずさとして。」

「・・・!?」

「雪菜は音を聞けばわかると思う、これは俺もかずさも同意見でな。七年前にかずさのピアノを聞いてるから余計に音の違いが伝わると思う。」

「伝わると思うって、それって伝わったら・・・!」

「それが雪菜にどれだけ衝撃を与えるかってことは俺だって簡単に分かることだ。だから・・・」

「・・・だから、俺たちに頼むってわけか?」

「・・・その通りだ。」

「雪菜をフォローしろってこと?」

「依緒、お前だって分かってるだろ?そのフォローがどんだけ重要か。」

「・・・そりゃ、ね。この二年間、ずっと雪菜と一緒にいたのはあたしたちなんだから・・・。」

「・・・俺に謝る権利はないかもしれないけど、すまなかった、依緒、武也。」

「それはもういいって。それより春希、お前の見立てではどうなんだ?また、ああなると思っているのか?」

「・・・分からん。ただ、ウィーンでの俺たちの印象はやっぱりそうだから、ビデオレターだけじゃやっぱり印象変わらないんだよ。だから、余計に、さ。」

「それもそうか・・・、っとまて、冬馬の雪菜ちゃんの印象はどうなんだ?」

「ああ、そっか。武也たちには言ってなかったか。かずさのやつ会いに行ってるんだ、あの時の雪菜に。」

「!? それ、いつだ?」

「二度目のコンサートの、雪菜がいなくなった日の、前日・・・。」

「もしかして、雪菜がいなくなったのって・・・!」

「それも俺らには分からない。かずさの話だと支離滅裂なことも言ってたけど、雪菜は雪菜だったって。俺が見た雪菜と同じ状態だったから、それが決定打ではないと思う。」

「ま、そもそもあの時の雪菜ちゃんじゃ、直接対決にならなかったろうしな。会話を成立させるのも大変な状態だったんだから。むしろ冬馬との方がまだそれまでの雪菜ちゃんに近かったんじゃないか?」

「俺もそう思ってる。・・・そもそも誰がなんと言おうと結局雪菜をああしてしまったのは俺なんだから。」

「それはそうかもしれないけど・・・。」

「確証はどこにもないとはいえ、もしあんな風にまたなってしまう可能性があるなら、潰しておきたいんだ。あんな雪奈は、もう見たくないんだ・・・。独り善がりでも、あんな雪菜は・・・。」

「お前が言うのか?とも言えるが、誰だって同感だよ。誰もがあんな雪菜ちゃんは見たくないのに同意する。だからその頼みも、まぁ、構わない。しかしそれはそれで問題を生むことにもなるんだが?」

「たけ・・・。」

「分かってる。分かっていても、それでも・・・頼む。これが、今、雪菜の為にできる精一杯なんだ。」

「春希・・・。」

「こんなことしかできないけど、できることはしたいんだ。だから、二人とも虫がいいと思うだろうが、それでも、雪菜のこと、頼む。」

「それが雪菜ちゃんを思い悩ませることになってもか?」

「武也、あんた・・・。」

「それでも、だ。俺にできることは何もないって、余計なことしかできないってこと分かっていても、なんだ。それでも、したいんだ。今の俺が雪菜の為にできる限りは・・ ・。」

「・・・やれやれ、ほんとお前は変わってないな。二年前、あんだけケジメをつけておきながら・・・。それを覆すかもしれないことを平気でしようとしやがる。」

「そんなことはないさ。・・・二年前と同じなだけだ。」

「同じ、か・・・。それだっていいことじゃねぇけど。」

「それも・・・。」

「分かっちゃいてもだろ。ま、お前が雪菜ちゃんを気にしなくなることなんてないよな、そりゃ。そして、逆も、だしよ。」

「・・・かもな。少なくとも俺もかずさも、雪菜のことを気にしなくて済むことはないんだ。この二年間で俺たちはそれを思い知らされたよ・・・。」

「春希、あんた・・・まだ」

「その先は続けるなよ、依緒。それは誰にとってもよくない質問になるからよ。春希だけじゃないぞ。」

「・・・そうだね、ごめん。」

「いや、依緒が謝ることはないさ。武也も、すまない。」

「さすがにそれは聞かなくても分かってるし、聞いていいことないしよ。・・・他人事じゃないしな。」

「・・・。」

「武也も依緒も、すまない・・・・・・。」

「春希が謝る必要があるのは、俺らじゃないだろ。とりあえず俺にはいらないさ。依緒、お前は?」

「・・・なんでわざわざあたしに振るのよ。」

「だってお前、まだ春希と距離感、微妙だろ?だからだよ。」

「いいんだ、依緒の態度の方が当然なんだから。」

「いや、その、春希、違うんだ・・・。本当は武也が言ってるのってそういうことじゃないんだから。」

「理解してる。それでもだ。」

「春希、・・・わかるの?」

「おいおい、春希だぞ?それこそ分からないと思ってるのか?余計なことに気を回させたら峰城一だぞ。」

「それは・・・確かにそうだけどさ。」

「それで納得されるのはこっちが納得し難いんだが・・・。」

「「なにをいまさら。」」

「そういう時だけは変わらずに息ぴったりだよな、お前ら。」

「そりゃ、付き合いだけは長いからね、あたしたちは。」

「「「・・・。」」」

「・・・とりあえず、今回はその長さを活かすためにも、会場から出てきた雪菜ちゃんを捕まえればいいのか?」

「いや、多分会場を飛び出して公園とかに行くと思う。なんていうか人ごみから少し離れて、感情をあふれさせる気がするんだ。」

「ふむ。ってことは、あとを追いかける方がいいわけか?」

「できれば。最初から武也たちがそばにいると、溜め込みそうだからさ。」

「一理あるな。なら少し時間をおいてから声をかけるとするか。」

「そうしてくれると助かる。すまんな、色々と。」

「いいさ。雪菜ちゃんが心配なのは俺らも同じだし、春希が直接そうするよりはよほどいいしな。」

「重ね重ね助かる。俺ができるのはこれくらいなんだ。雪菜にできることはこれぐらいで、できる限りのことはしたいから、だがら雪菜のこと、頼む。」

繰り返されたそのセリフが
春希の本音を教えてくれていた

それが2人にはとても強く響いた

これからまた嵐がくる予感とともに


~*~


「結局、あたしたちのしたことは良かったのかな?」

依緒が自信なさげにそんなことを言う

「そんなもの、後になっても分からないだろ。」

しかしやってしまったことは変えられない
それを後からああだこうだ考えたところでいい考えには結びつかないのは
この二年でいやってほど知った
いや、再確認したが正しいのかもしれない

それでも依緒は悔いることをやめないらしい

「もう少し、うまいやり方があったんじゃないかって思っちゃうんだよ。」

「どう、だろうな。あったかもしんないが、俺たちが関わってる時点で春希の影を感じるのは止められないだろ。春希が仮に関与してなくたって、俺たちが春希と無関係じゃない限り、考えちまうのは止められないさ。」

「そんなこと言ったら何もできないじゃん。」

「最初からできることなんて大してないって。5年前の状況ならいくつもあったかもしれないが、2年前から俺たちはできることはほとんどなくなったんだって。忘れちまったのか?」

「忘れちゃいないけどさ・・・。」

「だからこそ、俺だってできることがあるならしておきたい。それで雪菜ちゃんがどう思うかを深く考えてた日には何一つできなくなるしよ。」

「あたしだって力になれるならなりたいよ。でも、また二年前のようになるかと思うと・・・。」

「しようがしまいがなるときはなると思うぞ。そこを決めるのも揺らすのも俺じゃない。」

「・・・だから、できることを、か。武也にしてはちゃんと考えてんだな。」

「余計なお世話だよ。」

むしろ、考えてばかりだ
あいつらのことばかり考えていて
ほかのこと、特にプライベートがおろそかになっているくらいに

それでいいのかというのもなくはないが
やはりそれでいいという思いが圧倒的に強い

少なくとも今年は

これからまた冬が来るのだから

それまではあいつらから目を離せない

でないとまたあの悔しさを味わうことになるかもしれない

全てがバラバラに崩れたあの日のようになるかもしれないのだから

今は集中していたい

もう二度と、あの日、あの時の仲間が揃わないなんてことだけは

元部長として許すわけにはいかねぇんだ


~~~~~~~~~~~~~~~


ということで、コンサート前の武也と依緒と春希の会話に
武也と依緒の前にもシーンを書きました反省会の模様でした

武也も依緒も春希も雪菜を助けたいのですが、それぞれできること、できないことがあるということがポイントになるかと思います。そしてお互いにお互いの立場と状況を理解しているので、できるできないを相互に分かり合ってることで助け合いながらも、そこに尽きない悩みが生まれるということになるのではという感じです。

そんなわけで39.5でしたが、眠気で頭がうまく回ってない今ですので、後日どこかこそっと変わってるかもしれません。それだけはご了承くださいませ~。


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感想

今回の話を読むと帰国すると決まってからかずさはビデオレターの返事の事をずっと考えていた感じですね、勿論春希もでしょうが。帰国して直ぐの冬馬邸でのかずさと雪菜の会話に置いての雪菜の提案をかずさが春希も反対すると言って拒否する姿勢を示しましたが、口で言っただけでは駄目だろうと考えて春希と話し合って演奏でハッキリと返事をする事にしたという所でしょうか?春希は雪菜の受けるショックの大きさを考えてイオタケにフォローをお願いしておき、かずさもその辺りを承知している様は北原夫妻の絆の強さを感じます。

ちょっとお節介しますが誤字の指摘です。
「確証はどこにもないとはいえ〜」から
「分かっちゃいてもだろ〜」までと
「いいさ、雪奈ちゃんが心配〜」からラストまで 雪菜 が 雪奈 になっています。

次回の更新楽しみにしています。

Re: 感想

tune様
誤字の指摘、感謝いたします。途中から変換ミスして、そのままになっていたようで、気づいていませんでした、ありがとうございます。

また、コンサートそのものでかずさがかずさとして返事するというのは最初からウィーンで決めていたこと、と考えております。雪菜の『Powder Snow』に意味がいくつもあるために、その一つの返事が帰国後のセッションであり、別の意味への返事がコンサートであったとご理解いただければと思います。

プロフィール

海雪 海辺月

Author:海雪 海辺月
現在、White Album2 SS、特に冬馬かずさ SSを執筆がメインです。
目次はカテゴリーの未分類においてあります。
Eメール:umiyuki_4s@yahoo.co.jp
@を半角にしてください
メアド載っけてないことに今さら気づきました・・・

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