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The Day After 42

「あいつ、いつの間に・・・。」

箱の中にはDVDケースが2つ
それぞれにはまとめ売りしてそうな無地の白いDVDが1枚ずつ入っている

その2つのDVDに書いてある文字は一緒

『20××年学園祭 二日目ステージイベント』

これが眠らせていたものの正体



The Day After 42



かつて、日本から離れウィーンに来てすぐにやらねばならなかったのが、これだった

楽しかった、最高の瞬間だったあの頃とそれにまつわるエピソード、思い出、記憶
全部まとめて、封じ込めること

ウィーンで、2人だけの世界で生きていくために必要な

とても大切な儀式、だった

しかもその儀式をせねばならない理由がもう一つ

これがまるで自身の雪菜への想いの写し鏡のようだったから

捨てることも譲ることもできないから

だから
こうしてしまうしか
蓋をするしかなかった

蓋をして、そのまま物置の一角に置く

そうすることで、あの頃の俺とその想いと時間

過去があるから今があり、未来につながるという時間そのものも封じたのだ

でも、そうしたことを俺はかずさに告げていない

あの頃の俺たちに秘密はなかったけど
口にできないことはいくつもあった
中でも日本にいた頃の話は自分たち2人だけの話ならできても
3人でのエピソードに触れることなんてできやしないから
それは2人の世界を崩すことになるから
口に出さないまま
お互いにそれを封じた

お互いにそれを理解しあっているから秘密ではなかったが

口には出せないことであり

共有された触れられないものだった

その象徴がこのDVD

だからこそ、これは、こうして封じられ続けていた

そんな考えで、俺がこうしたことをかずさは気づいたのか
それともかずさも同じことを考えたゆえになのか

自分の分しかしまってなかったはずのこの箱に
いつの間にか2枚目がしまわれていて

だからこそのさっきのセリフ

そしてそれ以外に言葉が発せないくらい
目に触れたものに心を揺さぶられている自分がいる

あの頃はこんな日が来るなんて思ってなくて
二度とこれは日の目を見ないものなんだと考えていたのに
こうしてまた開く時がくるなんて

酷く感傷的になる

いろんなものがごちゃ混ぜになって、過去にできた傷が騒ぐ

不思議なことに開けること自体には抵抗がなかった

日本に戻ったことで、既に覚悟はできていたからか
躊躇せずに開けることができた

―――開けることだけは簡単だった

けれども、開けて中の物を見た途端
時間が止まった気がした

実際に目にしたことで、蘇ったものたちで
体が止まってしまったのだ

開けたままの姿勢で
中身のDVDを見ながら
動けずに様々な感情が荒れ狂う中、思考だけが回っていた

そんな中で、唯一できたことが言葉をこぼすこと
零れ出た言葉がさっきのもの

やはり簡単なことじゃなかったんだ

改めて気づかされる

決めていた覚悟なんてたかがしれていて
とても足りるものじゃないってことを

ここには七年前が眠っていた
三年間引き摺って、二年間凍らせていたものがある

それを半年の覚悟で、動かせるような軽いものではなかったのだ

ただ、二枚目のDVDがあったことだけは
救いだったのかもしれない
こうして言わなくともかずさは寄り添ってくれているのだから

そのおかげで、そのことだけでも口にできた

ただ、それだけしかできなかった
他に何か言うこともできないまま
ましてや、その状態から動いたりなんてできないまま
過去に心を鷲掴みにされた


「やっぱりここにいたか、予想通りのやつめ。」

そんな過去に捕らわれて動けないでいた俺を
見つけ出して声をかけてきたのはもう一人の当事者
その声に対して心の動いている部分のどこかが
やっぱりかずさにはここにいるって分かってしまったかという

「リビングにいないし、気配がないからここじゃないかと思ったよ。」

そう言いながら、かずさが背中から抱きついてくる

「よくここにいるって分かったな。」

かろうじて思っていた言葉は出たが、体勢を変えることもできないで
背をむけたままの、箱を開けたままの姿勢でなんとか会話だけはする

「単に整理整頓なり掃除なりしてるなら音や気配がするし、外に行くなら書き置きがないことはないだろ。となると、一番可能性があったのはここだからな。ウィーンに来た時からやるだろうとは思ってたしな。」

「やっぱりバレてたか。」

「当たり前だ。春希のやることだからな。バレないはずがない。」

そのかずさのセリフについ頼もしさを覚えてしまう
自分がこうして動けなくとも探し出してくれて、寄り添ってくれる
このDVDのように、かつて自分が、かずさを見つけ出したように
そうする、そうしてくれる

それが俺たちなんだってまた教えてくれるんだ

「見つけてくれてありがとうな。」

だから、そう言ってかずさの腕に手を重ねる

「礼なんかいるかよ、他人行儀だな。あたしはいつだってそうするさ。お前がしたようにあたしだってそうしたかったからするだけさ。」

そのセリフは言葉よりもずっと重い
あの日、もしかずさを探さなければ、かずさを見つけなければ、ずっと違った未来になっていただろう
でも、それは選択肢になかった
俺以外、誰があの時のかずさを見つけることができたろうか
そして、それをしない自分が想像できないし、あり得ないと言い切ってしまえるから
かずさの言う通りなのだ

「・・・これ、どうする?」

「・・・どうするってのも難しい話だが、このままか、置いておくか、見るか、だろ?」

このままもう一度ふたをするか、ケースごと出してどこか部屋に置いてくか、2人で見ることにするか

この三択

とてつもなく重い選択肢

「となればこのままってわけにもいかないんじゃないか?しまったところで悩み事が減ってくれるわけでもないんだ。」

「そうすると選択肢は二つ、見るか、置いておくか、か。」

「ついでにその選択ってそこまで違いがあるか?どっちにしろ日本に戻る前にはこれを見なくたって、あの頃のこと思い出して色々と考えなきゃならないってことに変わりはないだろ、あたしたち。」

「そうなんだが、なにもコンクールの前にやらなくてもって気はしてる。さすがにこれは全く影響がないとは言えないだろうし。」

「さすがに、な。3人に関することだけはピアノに影響しないっていう嘘はつけないし、ついてもバレるだろうし。」

「だろ?だったらコンクールが終わって、冬がくる前の合間に見ればいいんじゃないかって。それまで、こいつをおいておけば少しは心の準備ができるんじゃないかなって気してさ。」

「心の準備・・・、か。それが必要なくらい、今のあたしたちはあの頃に比べて違うんだよな。」

そう、違いがある
そして、あの頃の自分たちを見れば、それはよりハッキリと突きつけられてしまう
でもそれを知らなければならない時がきた

だからこそ、こいつを開けたんだ

「だから、まずは置いておこうかと思う。それでいい方向に作用するかなんてわからないが、こうしてこれを見るだけで固まっているようじゃ、困るしさ。」

「その通り、だな。七年前のことを思い出して平常心でいられるようなものじゃないし、素直に懐かしむことができるようなものじゃないけど、忘れ去ることも訳にもいかないなら、準備しておくしかないよな。」

「ああ、そのためにもこいつを開けたわけだし。」

口だけは何とかいつものように動く
だが体までは動いてくれない
ここにあるものが俺を離さない
心と記憶を離さないから
どうするか話ながらも
かずさに抱き締められたまま
過去に引きずられている

まだ、慣れるには 過去を思い返して懐かしむのには 早すぎるなんて 分かっていたけど

でも、その時は、すぐそこまで来てるから

冬に向けて 俺たちは ――――――




~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

大分遅くなりました。
先々週の末くらいに挙げる予定でしたが、ここまでずれ込みまして・・・。
ということで、42です。
あまりここでアレコレ言うこともないくらい、テーマはハッキリしてますね、今回は。

それと、地味に子供がでてくるもう一つの方が読まれていることに少し驚きでした。
そちらも、ボチボチ再開したいですね。ただ、雪菜に触れるのは避けられないのでこちらの結末はまるわかりになりますがご了承ください。といっても、読者の方々はすでに雪菜の望みも凡その着地点は気づいておられるかと思います。あとはそこにどう持っていくか、ですね。それがまた難しいのですけども・・・。

なお、ハルキスの方はゆっくり書いてます
葵とのイチャイチャシーンが少ない気がしたので、そんな感じのものとなっております、今のところは、ですが。


それではまた次回に~。


~~~~~~
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感想

何かじわじわと染みて来る様な感じの話ですね。日本へ戻ってきて雪菜と再開しそれなりには関係を修復したもののやはりあの時には戻れない無地のDVDはあの時は純粋にライブを成功させようとしていた3人の思いの様ですね。でも今の春希とかずさにはまだ振り返る事は出来ない、困難かもしれませんが、いつか2人(いや3人)が笑ってあの時を回想出来る日が来ると良いですよね。

所で、海空星雪様は「冴えない彼女の育て方」は御覧になっていますでしょうか?私は世界観について行けなくて二話で挫折しました。
プロフィール

海雪 海辺月

Author:海雪 海辺月
現在、White Album2 SS、特に冬馬かずさ SSを執筆がメインです。
目次はカテゴリーの未分類においてあります。
Eメール:umiyuki_4s@yahoo.co.jp
@を半角にしてください
メアド載っけてないことに今さら気づきました・・・

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