The Day After 43

「で、今回のコンサートだけど調子は悪くないか?」

「答えが分かってるくせにわざわざ聞くか?」

「そこはほら、仕事だと思っておいて欲しい。」

「仕事、ね。ならこっちも一応答えておくか。あたしはいつも通りだよ。これからラスト一週間でいつものように作り上げるし、今回もいい感じであがるさ。いつものヨーロッパで出せるパフォーマンスは出せる。」

「心配、いらなそうだな。」

「最初からいらないだろ。今回は何かあるわけでもないし、先のことを一々考えるのもあたしの役目じゃないんだから。」

「・・・そこまでハッキリと分かってて答えを返してくるなら、いらない心配だったか。」

「ああ、あたしは想いと向き合う必要は今さらないからな。それは通り過ぎた道だ。」

「・・・そうか、そうだったよな。」

「だから、コンクールに関しては心配いらない。それよりも春希はその後の心配をしておけ、あたしの代わりにさ。」

「代わりもなにも最初から俺の仕事だよな、それ。」

「だとしても半分はあたしのことだろ?」

「俺よりもよほど冷静というかしっかりしてるみたいだな、すまん。」

「ま、コンクールっていう目先の目標がある分な。で、それがない春希は、日本に戻ってからのことを考えておいてくれってことだ。コンクールだけだから暇だろ?」

「かずさの世話が減る分、確かに時間に余裕はできるが、それを本人から言われるのもなんか違うと思うんだが。あと考えておいてくれも何もそれが気になって仕方ない俺にわざわざ免罪符をよこさなくていいぞ。」

「時間があることには変わらんだろうから。だからその時間使って考えるなり向き合うなりすればいいってこと。あたしのことよりも、さ。」

「そうは言うが、どうせあれを見ないことには、向き合えないわけだし、俺があれこれ思い悩んでどうにかなることでもないしなぁ。答えだって既に出ていることだし。それにかずさのことよりってのは無理だろ。コンクールとかの前は俺が体調管理せんと本番前に倒れかねん。」

「それでも心構えは必要なんだろ?なら、それを用意しておいてくれ。」

「・・・・・・・かずさは心構え、要らないのか?」

「さっき言った通りだ、春希ほどは要らない。あの頃の姿を見るのは怖くはあるが、あたしはそこまで変わってはいない、中も外も。辛いのはあの頃の雪菜を見ることぐらい、かな。」

「・・・それは俺もだけど。ただ、それだけじゃない、けど。」

「だからその分の時間が、都合よくこれからあるってことだ。」

「といっても、その間に何をすればいいのか分かんないんだけどな。覚悟を決めろって言われても、出来てたつもりがあれをとりだすだけなのにあんなザマだったし、見るとなると、ほんと・・・。」

「それまでに何かをするんじゃない、日常を感じておけ。あたしと暮らしてるこの日々を、自分が手に入れたものを見つめ直すいい機会にでもしとけってことさ。」

「・・・・・・その通り、だな。それが前に進むために何よりも必要なもの、だもんな。」

「ああ、それが一番要るものだろ。」

「すごいな、かずさは。もう、いつの間にそこまで覚悟決めて前を向いてるんだから。だったら俺も・・ ・。」

「置いてく訳ないだろ、あたしが春希を。」

「それは、分かってる。だからといって、待っててもらうってのは、さ。」

「待ってるわけじゃないさ。たまにはあたしにも手を引かせてくれってだけだ。」

「そういうこと、か。」

「そういうこと、だ。」

「ありがとう、頼む。」

「任せとけ。お前があたしの世話をする分くらいにはな。」

その言葉を告げたかずさの表情に引き込まれて 春希は言葉がそれ以上でなかった

一人で世界と戦っていた姿に重なるようで 違う

例えどんな世界で、どこにいたとしても

ずっと隣にいて 一緒に戦ってくれる

そんなことを無限に信じさせてくれそうな

そんな顔

春希だけに魅せる 特別な その顔

それが春希には百万の言葉より響く

だから、春希は静かに 全てをくれるかずさを

抱き寄せて 今を感じることにする



~*~


「すまん、ありがとう。時間、大丈夫か?」

しばしの間、かずさを抱きしめつづけていた春希は再び顔をあげてかずさに問う

「すでにオーバーしてるが、大丈夫だろう、先生もせいぜい呆れるくらいだ。」

「いや、それ大丈夫じゃないだろ。一言謝罪した方がよさそうだな。」

「そしたらまた大人げなく『お熱いわねー、うらやましーわねー、腹立つわねー』とか言われるぞ?」

「そんな所がお母さんそっくりというか、ピアニストってていう気分にさせてくれるんだけど。」

「同じ男を取り合った仲らしいから、そんなもんだろ。」

「・・・え?そうなの?初耳なんだが。」

「あれ?前に母さんが言ってたんだが・・・ああ、あれ、お前がいない時か。」

「そんなん知りたくなかった、謝罪しながら微妙な表情になりかねん。」

「そこは特技の優等生ぶって誤魔化してくれよ?」

「なんでそこまで微妙な言い回しなのかは問い詰めないとして、準備するぞ。」

「はいよ、といっても忙しいのはあたしじゃない。」

「それは分かってる。ただ、協力してくれってことだ。」

「しょうがないなぁ、春希のためだしなぁ。」

「はいはいその通りですよ、俺のためですよ。」

「だがとりあえず遅れるって連絡だけいれといたらどうだ?」

「・・・それもそうだな。」

まだ頭が回りきっていない春希に代わりにかずさが示す道筋

「電話してる間に着替えの用意しておいてくれないか?あと、ブラシとか。」

「ああ、分かった。恰好はこのままでもいいとは思うけどな。髪も問題ないし」

「頼むから部屋着と外出着を着替えるということを理解してくれ。それと身だしなみは最低限とはいえしないわけにはいかないってことも。」

「すこーしくらいは理解しているぞ。必要かどうか疑問なだけで。」

「なんでそう無頓着なんだ?昔から疑問だったんだが、もしもし北原です。」

「昔から必要なかったからだろ。というか必要がないようにしてたし、我ながら必要ない体で色々と楽だし。」

「すみません、所用がおしまして、もう少ししたらそちらに向かいますので、申し訳ありませんがもう少しお待ちいただければと思いまして。・・・え?いえ、そんな別に・・・はい、・・・いえいえ。はい、ええ、そういことですので、遅れてしまい申し訳ありません、・・・はい、ええ、そうです。それではまた後ほど。はい、失礼いたします。で、必要ないってのは一部同意できるが、必要なものなんだって認識をもってくれ。」

「それよりなんだって?」

「なんかまだ家にいるのバレてるっぽいけど、分かったってさ。細かいことに拘らない所はありがたい人かな、こういうときは。」

「ま、なにせあたしは冬馬曜子の娘だからな。」

「・・・・・・ああ、なるほど、納得しちゃいけない気もするが、納得できる回答だな。」

「そういうことだ。わざわざこっちにまでついてきてくれてるのに、な。」

「かずさにあわせてヨーロッパと日本に行ったり来たりだもんなぁ。そう考えると改めて罪悪感が・・・。」

「それも母さんと春希がやらかしたからだろ?」

「あ、やっぱバレてた?」

「当たり前だ。あたしの才能に惚れ込んだとかいう嘘よりよほど常識的な答えだ。」

「かずさの常識は世間一般では非常識」

「非常識とか言って話をずらしての逃げはワンパターン過ぎる。いい加減変えたらどうだ?」

「・・・前向きに善処します。で、服は?」

「ほい、これでいいんだろ?」

「ああ、助かる。それじゃ着替えて身だしなみを整えていきますか。」

「よろしく。」

短い一言で春希に全てを託すいつものかずさに戻り
春希もかずさの世話をするいつもの姿に戻る

日常に帰る

やがて来る日への覚悟と決意のために 日常を生きるのだ



~~~~~~~~~~~~~~~
すっかり月1ペースになってしまいましたが、43話となります。
DVDを見る前の一幕、ということで今回の話となりました。
そしてコンクールの中身はさほど重要ではないので次は実際にDVDを見てという話になります。
ということで、すでに次は重そうな雰囲気が漂っているなぁという感じですね。
しかもどう書き上げるか既に悪戦苦闘中ですなので、気長に待っていただければといういつものパターンです、すみません・・・。たま~にひょんなことから一気に書きあがる可能性がなくもないのですが、まぁ、まずないので。

という現状報告をいたしまして、この辺で~。

なおピアノの先生はCODAで曜子が言及していた人です。


スポンサーサイト

コメントの投稿

非公開コメント

感想

更新お疲れ様です。
これから2人に待ち受けることに対して春希の方がかずさよりもより大きな不安を持っている感じですが、かずさがそんな春希をいつも通りの態度で少しでも払拭してあげようとしている所が良いですね。
日常生活においては春希が主導権を持っていても今回の様な時はかずさが主導権を持ってこの2人はバランスをとっているのですね。
プロフィール

海雪 海辺月

Author:海雪 海辺月
現在、White Album2 SS、特に冬馬かずさ SSを執筆がメインです。
目次はカテゴリーの未分類においてあります。
Eメール:umiyuki_4s@yahoo.co.jp
@を半角にしてください
メアド載っけてないことに今さら気づきました・・・

最新記事
最新コメント
最新トラックバック
月別アーカイブ
カテゴリ
FC2カウンター
検索フォーム
RSSリンクの表示
リンク
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QR