「冬馬かずさ」の夏

セミの音がいくつも響き渡り

外はゆっくりと空の色を変える

誰もが想像する夏の一幕



けれども あたしには

これは夕暮れじゃない

あたしにとっては夏の朝のこの景色こそ

冬馬かずさの夏 なのだ

早朝のこのひと時こそが・・・



子供のころからピアノ漬けなあたしには外で遊ぶという時間が当然なかった

だから夏の夕暮れというものについて、あまり感覚がないというか、よく知らないが正しいんだと思う

そんなあたしに夏を感じさせるのがこの夜明け

涼しい風と共に セミの鳴き声が ひぐらしが 聞こえてきて

空がゆっくりと青白くなっていくこの時間

他の季節では味わえない このひと時が

あたしにいつだって 夏を感じさせる

人とは違う 一人で 独りの 夏の夜明け

それが 冬馬かずさの夏 だった

そんな夏を感じるこの瞬間を 誰かの隣で迎えることになるなんて

孤独じゃなくて 愛する人の腕の中で迎えるなんて

そんな日が来るなんて 思いもよらず

子供の頃のあたしにそんなことを言ったら どんな顔をするだろうか

そう思うと笑ってしまいそうになる

父親の顔も知らないあたしは 母親を反面教師にしながら 母親以外の人間に興味を抱いていなくて

母親に認められるピアニストになるためだけに生きていたようなあたしに

そんなことを伝えるのだ

とても とても 味わいのある表情するんだろうなって

自分で解っているからこそ 笑ってしまう 笑えてしまう

ついでにいえば しかもそれがよりにもよって 北原春希だなんて

どんなやつか説明した日にはなんの冗談だと思うだろうし

頭がおかしくなかったのか、と過去の自分に言われるだろう

あたし自身、そう思っていたのだから



でも あの夏に変わったんだ

世界から色をなくして 二年間さまよって 

その先に行きついた場所で 待っていたもの

そいつにあたしは変えられた 

他者に興味をもってなかったあたしを 夢中にさせやがった



ああ、あの夏にあたしは隣りの奴に夢中になった

そのせいで夏の朝 あたしは孤独を感じる暇もなく

どうやって音楽を教え込むかを考え続け

気づけば夜が明けていたり 寝ていたりと

ピアノから離れていたあたしに久しぶりの忙しい日々を寄越した

そんな独りであるこを忘れた夏を過ごした

しかもそれだけじゃなくもう一つ

ピアノを弾く理由をさえも あたしの根幹さえも変えさせられた、そんな夏だった


それから、その夏を超えて また夏がきたときは

既にあたしは東京にいなくて 全く別の夏を過ごすようになり

独りの夏に戻った

かつてはあれほど望んだ母親と一緒の海外へ行けたのに

独りに戻ってしまったのだ

また、夏が始まっていた

1人で独りの夏が―――



でも今はこうしている

この東京で、あの頃と同じように夏を感じている

明けゆく空は色が移り変わり

セミたちが必死に音色を奏で

あの頃と変わらない夏の朝



そこに もう一つ 穏やかな吐息が加わった

規則正しく 穏やかで あたしの心を暖めてくれる

孤独でないと教えてくれる

春希の寝息 が、加わった



「冬馬かずさの夏」から、「北原かずさの夏」になった



空がゆっくりと色を変え

セミがいくつもいくつも鳴き

ヒグラシがあの独特な音を奏でる

夏が 今年も やってきた


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

今回の季節シリーズ、夏ですが、テーマは「かずさが夏を感じる時は」というものに焦点を当て
そこから夏の夕暮れよりも夏の朝かなと思い、できたのこがこのSSとなります

夏の朝の涼しさと生活音のなさに、彼女なりに感じ入ることがあるんじゃないか
世界は朝を迎えているけれども街は眠ったままで なんていう所に
他人とは様々な面が違うかずさが孤独なんかを感じていたんじゃないか
それがかずさの夏なんじゃないかと思ってこうしてできました

相変わらず短編ばかりですが(笑)、お気をなが~くしてお待ちいただければ幸いです。

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2人だけの

更新お疲れ様です。
夏はかずさと春希にとっては2人だけの時間を過ごした初めての季節であり後のWAの季節にも繋がっていきますが、かずさの中ではそれまで孤独に過ごした高校生活であったのが春希に対して恋心を抱く様になって行くなどいわば普通の女の子として過ごした時間でもあるので特別な気持ちは春希以上かもしれませんね。
次回も楽しみにしています。

2人の季節

更新お疲れ様です
作中夏の事が語られているシーンは短いのですが、雪解けを含めてかずさと春希、2人が初々しく距離を縮めていた特別な季節だったのは確かで思い入れはあるんじゃないかと考えます
それよりこの短編の魅力は過去の自分に現状を伝えたら~とかずさが妄想するところにあると思います!
別のゲームの二次創作でそんな作品があったのですが、はっきり言ってちょっと切なくて萌えるシチュエーションなんですよね~
プロフィール

海雪 海辺月

Author:海雪 海辺月
現在、White Album2 SS、特に冬馬かずさ SSを執筆がメインです。
目次はカテゴリーの未分類においてあります。
Eメール:umiyuki_4s@yahoo.co.jp
@を半角にしてください
メアド載っけてないことに今さら気づきました・・・

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